| Research Abstract |
植物は,環境に応じて細胞内オルガネラを柔軟に変化させる能力を持っている.小胞体は分泌タンパク質合成の場であるが,虫害により小胞体からβグルコシダーゼ(PYK10)を大量に蓄積する新規オルガネラ(ERボディ)が形成されてくる.ERボディは虫害のみならず,幼植物体の表皮にも多くみられる.初年度はERボディ形成に関わる因子を同定することを目的として,以下の研究を行うとともに,ERボディや液胞に蓄積する液胞プロセシング酵素(VPE)の細胞死における役割を明らかにした.
1.小胞体の形態に異常を来したシロイヌナズナ変異体の単離
小胞体残留シグナルを持つ緑色蛍光タンパク質(GFP-HDEL)を強制発現させたシロイヌナズナ形質転換株(GFPh株)を作成した.この植物は小胞体がGFPにより可視化されている.GFPhを用いて,アクチベーションタグラインを作成し,小胞体の形態に注目してスクリーニングを行った.およそ5,000ラインをスクリーニングしたところ,ERボディの数や形が変化した変異体を見つけることができた.現在,これらの変異体の原因遺伝子の同定を目指している.
2.PYK10の発現がERボディ形成に与える影響
ERボディには小胞体残留シグナルを持つβグルコシダーゼ,PYK10が大量に蓄積している.また,ERボディが蓄積しないnai1変異体では,PYK10の蓄積が見られない.そこで,PYK10遺伝子の欠損株を単離し,ERボディが蓄積するか調べたところ.PYK10欠損変異体では,ERボディの形成が押さえられていた.このことから,PYK10はERボディ形成に必要であることが明らかであった.現在,nai1変異体にPYK10を過剰発現させ,ERボディが形成されるか調べている.
3.VPEの細胞死における役割
植物における細胞死にはカスパーゼ活性を持つプロテアーゼが関与している.合成基質を使用した解析からカスパーゼ活性を持つ酵素として液胞プロセシング酵素(VPE)を同定した.VPEの発現を押さえたタバコでは,カスパーゼ活性が減少し,タバコモザイクウイルス(TMV)による過敏感細胞死が押さえられた.電子顕微鏡観察からTMVによる過敏感細胞死において細胞が死ぬ前に液胞が崩壊していることがわかった.これらのことから,VPEはカスパーゼ活性を持ち,液胞を崩壊することで細胞死を誘導していることが明らかとなった.この結果は,論文としてサイエンス誌に報告した.
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