Research Abstract |
昨年度までに決定した可溶性αシヌクレインのin vitroユビキチン化部位(Lys21,Lys23,Lys32,Lys34)およびαシヌクレイン線維のユビキチン化部位(Lys6,Lys10,Lys12)が,実際にin vivoでもユビキチン化されているかどうかについて検討した。293T細胞を用いて,タグなしαシヌクレインおよびHA-ユビキチンをコードする発現ベクターを共発現させ,そのライセートを抗αシヌクレイン抗体あるいは抗ユビキチン抗体を用いてイムノブロット解析した。その結果,αシヌクレインとHA-ユビキチンを共発現させた場合にのみ,両抗体で認識される分子量約22kのバンドが検出でき,細胞内でαシヌクレインがユビキチン化できることが示された。αシヌクレインのN末端側に存在する繰り返し配列中のLysをArgに置換した変異体を発現させたところ,Lys6,Lys10,Lys12の3ヵ所をArgに置換した変異体を発現させた場合に顕著なユビキチン化の抑制が認められた。以上の結果より,293T細胞内でのαシヌクレインの主要なユビキチン化部位はLys6,Lys10,Lys12であることが判明した。この部位はαシヌクレイン線維のin vitroユビキチン化部位と同じ位置であった。したがって,293T細胞にαシヌクレインを大量に発現させると,一部の分子に何らかのコンフォーメーション変化などによる異常(線維化もしくはオリゴマー形成など)が生じ,ユビキチン化されるという機構が示唆された(Nonaka etal, Biochemistry,44,361-368,2005)。 以上の機構は実際の患者脳におけるαシヌクレインのユビキチン化の機構を反映している可能性があるため,次にαシヌクレイノパチー患者脳におけるαシヌクレインのユビキチン化部位の同定を行った。αシヌクレイノパチーの一種であるHallervorden-Spatz病患者脳より調製したユビキチン化αシヌクレインを含む画分をリジルエンドペプチダーゼで消化し,nanoflow LC-MS/MSで解析した。その結果,予備的ではあるがLys12がユビキチン化部位の一つであることが判明した。すなわち,実際の患者脳に存在するユビキチン化αシヌクレインのユビキチン化部位は,上述した培養細胞内でのユビキチン化部位とほぼ同じであることが明らかとなった。したがって,シヌクレイノパチー患者脳におけるαシヌクレインのユビキチン化はその蓄積・線維化に必須な(原因となる)現象でなく,細胞内で不溶化・蓄積したαシヌクレインをユビキチン・プロテアソーム系で除去しようと試みた結果の現象であることが示唆された。
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