Research Abstract |
本研究の目的は,手指感覚識別時にみられる手指循環動態変調機構を明らかにすることである.そこで手指感覚識別課題として点字解読課題を用い,点字解読時にみられる橈骨動脈血流量および手指皮膚血流量の動的変動を測定した. 方法:実験は2つのプロトコールから構成されている.(1)被験者は机座姿勢をとり,10分の安静の後,右手示指を使用して1つの点字プレート(幅3mm,高さ1mmの凸を点字模様に従って配列)の解読作業を15秒間行った.もう一つは対照実験として,(2)点字模様のない平らなプレートを(1)の場合と同じ動作で触れさせた.この2つの課題施行時にみられる橈骨動脈血流量,掌側第3・4指皮膚血流量および心拍数,血圧の変動を測定した.さらに橈骨動脈血流量,手指皮膚血流量は点字解読側および反対側の両方の手部で測定した. 結果:点字解読時に,心拍数および,平均血圧は軽度増加傾向を示した.しかし,その増加量は4beats,および7mmHgと少なく,点字解読にともなう運動および心理的ストレスの影響は少ないと考えられた.一方,橈骨動脈血流量は点字解読時および点字模様のないプレートに接触している時の両方で減少したが,その減少量は点字解読時において著しく大きかった.さらに解読側と反対側の血流変化を比較した場合,解読側の変化が有意に大きかった.血管コンダクタンスの変化は血流量と同様の傾向を示し,点字解読中に著しく減少した.手指皮膚血流量の変化も橈骨動脈血流量の変化と同じ傾向であった. 本研究は点字解読時に手指血流量が減少することを明らかにした.この血流量減少に関して,血管コンダクタンスが点字解読時に著しく減少していることから,交感神経を介する手指末梢血管の収縮が起こり,手指へ配分される血流量を減少させたと考えられる.さらに解読側の血流変化が反対側に比べて有意に大きかったことから中枢性の手指血流調節の関与が示唆された.
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