2004 Fiscal Year Annual Research Report
ブータン・ヒマラヤにおける氷河縮小と氷河湖拡大に関する研究
Project/Area Number |
16710010
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Research Institution | Hiroshima Institute of Technology |
Principal Investigator |
内藤 望 広島工業大学, 環境学部, 講師 (90368762)
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Keywords | 氷河縮小 / 氷河湖 / ブータン / ヒマラヤ / 人工衛星画像 / 現地観測 / 浮上速度 / 氷河質量収支 |
Research Abstract |
ブータン・ヒマラヤ中部ルナナ地方のトルトミ氷河およびルゲ氷河を対象に2002〜2004年にかけて実施された現地調査のデータを解析した。その結果、両氷河の表面低下速度が、ルゲ氷河では約5m/年と非常に大きく、トルトミ氷河では0〜3m/年程度と相対的に小さいことが判明した。また両氷河における表面流速は、トルトミ氷河では上流部で約90m/年から下流部で約40m/年へと減衰する圧縮流が顕著であったが、ルゲ氷河においては全域で40〜55m/年の範囲に収まり明瞭な圧縮流は認められなかった。一方、両氷河における融解環境は同等であった。そこで両氷河における縮小(表面低下)傾向の違いは、質量収支(融解)環境の違いによるものではなく、氷河の圧縮流に伴う表面の浮上速度の違いによるものであることが明らかになった。そしてこの圧縮流が異なる原因は、ルゲ氷河の末端部に巨大な氷河湖が存在しているためと考えた。すなわち氷河湖に接する氷河末端の氷崖が盛んに削剥・分離したり、氷河湖の湖水が氷河下流部の底部に浸透したりすることを通じて、氷河下流部の流動を促進する結果、圧縮流が弱まっていると考えた。氷河湖とはそもそも氷河が縮小・後退する過程で形成・拡大しうる存在であるが、その氷河湖が充分に成長した暁には結果的に上流の氷河の縮小を促進するという、「氷河湖による氷河縮小への正のフィードバック効果」とも呼ぶべき現象を見いだしたことになる。この説について、本年度の国内学会で発表し、平成17年度には国際学会で発表するとともに国際学術誌への投稿論文としても発表すべく準備中である。 また人工衛星画像の解析により氷河湖面積の拡大速度を算出する研究にも着手した。この研究のため1962〜1970年に撮影された米国のCORONA衛星画像7シーンを購入した。本年度は、まずブータン・ヒマラヤ西部における4氷河湖を対象とした解析を実施した。いずれの氷河湖も拡大していることが確認できたが、その拡大速度はさほど大きいものではなかった。平成17年度以降も、ブータン・ヒマラヤの中部〜東部における氷河湖を対象とした解析に順次着手する予定である。
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