メチル水銀の中枢神経毒性発現機構に関する研究-感受性決定因子とその作用機構-

2004 Fiscal Year Annual Research Report

• Project/Area Number: 16710034
• Research Institution: Kumamoto University
• Principal Investigator: 森 信子 熊本大学, 医学部, 助手 (80274728)
• Keywords: メチル水銀 / ミトコンドリア / 酸化的ストレス / 活性酸素 / 抗酸化系物質 / 神経毒性

Research Abstract

メチル水銀(MeHg)の毒性発現機構についてはいくつかの説が提唱されているが、脳神経系に特異性の高い毒性がもたらされる機構については充分に解明されているとは言えない。その毒性発現にMeHgによる酸化的ストレスに対する感受性の相違が関与していることを明らかにするために、中枢神経系と他の組織におけるミトコンドリア(Mit)の活性酸素産生能・消去能について比較検討したことろ、以下の結果を得た。
1.対照群における各組織Mitの酸素消費量はstate3,state4のいずれの呼吸状態でも大脳、小脳と比較して肝臓で著しく低値であった。MeHgの曝露により肝臓と大脳ではその影響は認められなかったが、小脳ではstate3、state4のいずれの呼吸状態でも有意に低下した。
2.各MitのO_2^-産生量、H_2O_2産生速度は対照群において基質としてコハク酸、NADH(リンゴ酸+グノレタミン酸)のいずれを用いた場合でも小脳>大脳>肝臓であった。MeHgの曝露により小脳において基質としてコハク酸を用いた場合、有意に増加した。
3.活性酸素消去系物質のうち、GPX活性とSOD活性は対照群において大脳、小脳と比較して肝臓で顕著に活性が高く、MeHgの曝露により肝臓においてのみGPX活性の増大とSOD活性の低下が認められた。グルタチオン濃度は対照群において大脳>肝臓>小脳の順であり、MeHg曝露により大脳と小脳で、特に小脳で有意に低下した。
以上の結果から、生来、他の組織として比較して中枢神経系(大脳と小脳)ではMitの活性酸素産生系活性が高くて消去系活性が低く、酸化的ストレスに対する感受性が高いこと、また、MeHgの曝露により小脳でこれら因子が影響を受けたことから、MeHg毒性に対する中枢神経系の脆弱性がミトコンドリア微小環境における活性酸素産生量制御因子に依存している可能性を示唆している。