2004 Fiscal Year Annual Research Report
怨霊観念に現れた日本人の情念理解に関する倫理思想史的研究
Project/Area Number |
16720002
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
木村 純二 弘前大学, 人文学部, 助教授 (00345240)
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Keywords | 日本倫理思想史 / 情念 / 怨霊 / 説経節 |
Research Abstract |
研究初年度である今年度は、年度の初めに所属する東北哲学会から研究発表の依頼を受けたため、当初の予定を変更し、日本倫理思想史全体における情念の位置付けについて見通しを立て、発表することとした。その成果が「日本中世の人間観に関する一考察〜説経節をめぐって〜」であり(2004年10月24日研究発表)、同名の要旨が近々刊行される『東北哲学会年報No.21』に掲載の予定である(原稿提出済み)。この研究は、親子の情念と家の持続をそれぞれ中世的・近世的原理として対比し、その葛藤の様相を中世末期の説経節の中に探ったものである。説経節の語る情念の背景に前世の怨念が構想されていることが確認できたのも、新たな知見であった。 このような研究活動のなかであらためて課題となってきたのが、「物の怪」や「因果応報」といった当時の通念、ないしテキスト上の概念を、現代のわれわれが理解し得るものとして、どのような概念に置き換え説明していくかという方法上の問題である。そのために着目されたのが、日本の思想伝統を内在的に捉えた柳田国男・折口信夫ら民俗学者の知見と、西洋哲学の枠組の中で日本の思想伝統を生かそうと試みた九鬼周造・三木清ら哲学者の知見であった。こうした方法的な問題は次年度の課題として取り上げていくことにするが、そのような課題が認識でき、またそのためには近代日本の思想的営為の捉え返しが有効であることを確認できたことは、研究初年度の成果としては大きかったと言うことができる。 また、既に昨年度弘前大学哲学会で発表した「宿世の思想」を会誌掲載用の原稿にする際に、そうした今年度の成果を多少なりとも盛り込むことができた(近刊)。その他、共著『差異のエチカ』に掲載された「情念論のゆくえ」も、既に昨年度中に原稿を提出したものであるが、問題関心としては一貫したものであり、多方面から意見をもらうことができたのは成果であった。
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