2005 Fiscal Year Annual Research Report
現代倫理学とイデオロギー批判の内在的関系に関する研究
Project/Area Number |
16720006
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Research Institution | Chuogakuin University |
Principal Investigator |
馬渕 浩二 中央学院大学, 商学部, 助教授 (70360089)
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Keywords | イデオロギー / 現代倫理学 / 正義 / マルクス / コミュニタイリアニズム / 労働 |
Research Abstract |
本研究の課題は、マルクスから始まるイデオロギー批判という試みが規範的要因によって可能になっているという立場から、この規範的要因を個々の理論家の著作に即して明らかにすることである。平成17年度は、労働という問題に即して、また現代倫理学との対質を通じて、この課題を遂行することを予定していた。しかし研究を進める過程で、労働という問題を含めながらも、より包括的な視点からこの課題にアプローチすることになった。具体的には、社会に先立って存在するとされる自立した個人を理論の出発点にすることをイデオロギーとして批判するマルクスの著作に即し、マルクスがそうした理論をいかに批判したのか、その際にどのような規範的要因が機能していたのかを考察することになった。マルクスのテキストの読解作業を通じて明らかになったのは、以下の点である。第1に、マルクスはイデオロギー批判に際して、人間が社会的存在であることを単に経験的事実として強調しているだけではない。マルクスによれば、個人は社会のなかで差異化されることによってはじめて社会的存在として承認されるのであって、これがマルクスの理論的な前提であると同時に規範的な要因である。第2に、こうした社会的差異化のメカニズムを捨象するかぎりで、労働や交換を語る他の社会理論がイデオロギーとして批判されている。第3に、このようなマルクスの理論的な構えは、現代倫理学と比較されることにより、その特徴がより鮮明になりうる。とくに現代リベラリズムを批判するコミュニタリアニズムは、社会の外部にある個人を否定する系譜に位置づけられる。コミュニタリアニズムとの共通性と差異という視点からマルクスのイデオロギー批判に新たに照明を当てることができる可能性を示した。なお、労働というテーマについては、つぎの研究課題としてあらためて取り組んでいく予定である。
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Research Products
(1 results)