2006 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16720007
|
Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
橋本 崇 東海大学, 文学部, 助教授 (20287105)
|
Keywords | 否定性 / 日本哲学 / ドイツ観念論 / 九鬼周造 / 田辺元 / シェリング / ヘーゲル / 京都学派 |
Research Abstract |
今年度は、昨年度まで論究してきたドイツ観念論の中での後期シェリングとヘーゲルの否定性を軸とした論争を、もう一度神話の根源性の観点から整理した「神話は意識の起源を語るのか」という講演を、日本シェリング協会の国際会議においてドイツ語で行い、ドイツイタリア、スペインのドイツ観念論研究者との対話を深めていくことから着手した。すべてを自己意識の展開として体系的に導き出すヘーゲルの精神現象学や論理学の立場に対し、その根源に弁証法的論理をも基礎づける神話の知を見出そうとするシェリングの後期哲学は、すべてを合理的自由の発展と見るヘーゲルの歴史観に対する反省をも求めるものであり、アメリカ一極集中のグローバリズムに対して、異文化や文明観の対話が模索されている現代においても非常に示唆に富んだものであり、この点については対話者の間で問題意識を共有することが出来た。また、この問題の新たな展開の可能性をヨーロッパ以外の日本神話や日本哲学の中に見いだすことができるのではないかという示唆も、了解しあえたと思われる。 さらに、日本の哲学の領域においては、九鬼周造が生涯をかけた偶然性をめぐる思惟が、博士論文から『偶然性の問題』にいたるまでどのように深められ、そこに田辺元の倫理的観点からの批判がどのように反映されているかを解明することにより、二人の間で交わされた哲学論争の中心には、常に否定性の問題があることを明らかにしようと試みた。単純に図式化すれば、あえて美学的直接性の中に留まることで、詩や文学といった芸術の分野で展開された九鬼の偶然性をめぐる思惟は、田辺の目には倫理的領域での自己否定による媒介が十分展開されていない者として不十分なものと映ったわけだが、その批判はカントにおける合目的性と因果性との関係に基づいている。九鬼はこの田辺の批判を受け止め、この関係を詰めていく中でシェリングに近づく自分の立場を明確化していったと捉えることが出来るのである。 この研究についてはまだ全貌を明らかに出来るような論文の整理がついておらず、仕上げて成果を発表するためにはまだしばらくの時間が必要となるが、この二人の論争の果てには西田の宗教の立場も見えてくるのであり、そこではヘーゲルを含めたドイツ観念論における否定性の問題全体が再びクローズアップされてくる。この3年間の研究で得られた成果を着実に積み上げ、全貌を明らかに出来るよう論及を重ねていく所存である。
|
Research Products
(1 results)