2004 Fiscal Year Annual Research Report
近代ロシアにおける存在の学としての「物の哲学」の研究
Project/Area Number |
16720008
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Research Institution | Kanagawa University |
Principal Investigator |
大須賀 史和 神奈川大学, 外国語学部, 講師 (30302897)
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Keywords | 存在論 / ロシア思想 / 宗教哲学 / 倫理論 / スラヴ主義 / ナショナリズム / ソロヴィヨフ / イリイン |
Research Abstract |
今年度はこれまで蓄積した知見・資料に加え、2005年1〜2月にロシア・フランスで行った調査結果を一部使用することで、口頭報告三篇、論文二篇、共著書一篇の研究成果を上げた。これらは文学や社会言語学など他領域の研究者を交えたシンポジウム等での報告・討議を経た成果である。 本研究計画では、「ロシアにおける存在の学」が哲学の一専門分野としての存在論にとどまらず、およそ「ある」と述定されるあらゆるものを包括する哲学的構想であり、政治・倫理・法などの多領域にまたがる問題であるという作業仮説を証することを目的としている。それはロシアにおける存在論的伝統の解明と「物の哲学」の内実の分析という二つの側面から検討される。 共著書『新しい文化のかたち』に収録した論考では、前者の課題に取り組み、19世紀の代表的思想家を取り上げた。そして、当時のナショナリズムと反西欧の風潮が、実は『ロシアとは何か」という独特な存在論的問いかけに立脚していたことを明らかにした。また、その批判者であるソロヴィヨフは、キリスト教を普遍主義的に解釈し、神と人間をめぐる独特の存在論哲学を打ち立てることで存在論的関心に答えていたのである。 ソロヴィヨフは神学的に受容されたプラトン主義的伝統を再生させ、20世紀初頭の宗教哲学の興隆を促した。そこに見られる存在論的関心の具体的分析として、まず論文「亡命宗教哲学者の見た悪夢」では、革命前後に登場したイリインの構想を分析し、ヘーゲル哲学と現象学を基礎として、宗教的知見と自然法的思考を融合させた独自の法思想が形成されていたことを明らかにした。革命後にはここから興味深い反ボリシェヴィキ思想も生まれてくる。 また、論文「第一次世界大戦期のスラヴ主義」では、大戦期に復活したスラヴ主義的なナショナリズムの根底にプラトン主義的存在論に立脚する象徴主義的構想が作動している場合があることを明らかにした。
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