2005 Fiscal Year Annual Research Report
近代ロシアにおける存在の学としての「物の哲学」の研究
Project/Area Number |
16720008
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Research Institution | Kanagawa University |
Principal Investigator |
大須賀 史和 神奈川大学, 外国語学部, 講師 (30302897)
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Keywords | 存在論 / ロシア思想 / 宗教哲学 / 弁証法論理 / スラヴ主義 / ナショナリズム / ローセフ / ベルジャーエフ |
Research Abstract |
今年度はキリスト教的な宗教哲学における存在論的構成の分析と、ロシアの政治・社会思想に見られる存在論的前堤の分析という二つのアプローチにより、国際会議での口頭報告一篇、論文四篇の研究成果を挙げた。これらも他領域の研究者を交えた討議の成果である。 論文「ローセフとプラトン主義」では、正教神学、ギリシア古典学、近代西欧哲学を基盤として独自の存在論的哲学の構築を試みた哲学者ローセフの1930年の著作『神話の弁証法』の基本的分析を行った。これは「賦活された」人格的存在として世界を捉える神話的世界観の構造の弁証法的に解明したもので、近代ロシア存在論の到達点を示したものといえる。この著作は本邦での紹介事例がないため、基本的な資料を別に資料集という形にまとめた。 ロシア語で発表した論文(邦訳表題「哲学的行為の義認について:ソロヴィヨフ以後のキリスト教的理念の構築をめぐって」)では、20世紀初頭のロシア宗教哲学におけるキリスト教の教義理解とそれを延長した社会的・政治的主張との関係について論じた。1917年革命前夜の政治的変革期に、「存在変容」の教義に示された宗教存在論的問題と国家や権力のあり方をめぐる問題が関連付けて論じられており、宗教社会学的存在論とも言える思想が成立しつつあったことを明らかにした。 これと関連して、論文「ソヴィエト愛国主義と民族政策」では、19世紀の民族主義的な政治思想とされる汎スラヴ主義における「民族」概念の存在論的前提が、ソ連体制初期の民族政策の変転にも一定の思想的影響を与えた可能性を検討した。また、論文「革命批判の思想的射程」においては、1905年革命がロシアの政治状況の全面的な転換をもたらさなかったことに関連して、革命勢力の精神的・倫理的問題点を批判したベルジャーエフの構想が、一定の存在論的基盤に依拠しており、それが上述のような宗教社会学的構想の根底にあることを示した。
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