2006 Fiscal Year Annual Research Report
近代ロシアにおける存在の学としての「物の哲学」の研究
Project/Area Number |
16720008
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Research Institution | Kanagawa University |
Principal Investigator |
大須賀 史和 神奈川大学, 外国語学部, 助教授 (30302897)
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Keywords | 存在論 / ロシア思想 / 宗教哲学 / 弁証法論理 / スラヴ主義 / 神話学 / ローセフ / ベルジャーエフ |
Research Abstract |
今年度は国際会議での口頭報告一篇、国内のシンポジウムでの口頭報告一篇、論文三篇、翻訳書一冊の研究成果を挙げた。これらも文学や芸術学、社会思想など多様な専門分野の研究者との討議の成果である。 論文「ローセフとプラトン主義(2)」は昨年度発表した「ローセフとプラトン主義」の続編で、ローセフの『神話の弁証法』における人格的存在論の構成について検討した。ローセフは神話の本質を解明するにあたって、神話を日常的な現実の一部として受け取っている「神話的主体」の立場に立っべきことを主張している。その場合、神話はフィクションとしてではなく、現実の一部として捉えられている。これは一定の世界観からの「物」に対する意味付け=人格化によって成立するものであり、その存立構造の弁証法的解明が行われていることを明らかにした。 これと関連して、「ローセフの存在論的表現論と解離性概念をめぐって」では、ローセフが『神話の弁証法』で提起した表現理論における分析概念である「解離性」を応用的に解釈し、創作におけるリアリティの成立構造の分析に援用することで、その現代的意義について検証した。 一方、ロシア語で発表した論文(邦訳すれば「ベルジャーエフと『道標』-革命の批判者か、そして/あるいは反動的スラヴ主義者か?」)では、1909年に刊行された1905年革命の批判論集『道標』におけるベルジャーエフとブルガーコフの論文を比較検討し、両者の存在論的視点の相違がその後の宗教社会論的観点の相違に重大な影響を及ぼしていることを明らかにした。 また、昨年度に資料集として作成したローセフの『神話の弁証法』の翻訳を『神話学序説』というタイトルで刊行した。 さらに、今年度はこの三年間に発表した日本語論文八篇を一部改稿して収録した報告集を作成した。これについては、今秋に出版助成申請を行い、研究書として刊行する準備を進めている。
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