Research Abstract |
今年度は,(1)大英図書館における,Devacandra Lalbhai Jaina Pustakoddharaシリーズ.Agamodaya Samitiシリーズ,Jaina Grantha Prakasaka Sabhaシリーズ,Rsabhadevaji Kesarimalji Svetamvara Samsthaシリーズに刊行された白衣派ジャイナ教聖典,聖典注釈類,独立論書を中心とした文献収集,(2)広島大学所蔵の故宇野惇教授蔵書から,聖典注釈文献刊本の収集,(3)Dasavaikalikaniryukti, Anuyogadvarasutravrtti, Visesavasyakabhasyaに見られる推理についての記述の読解,を中心に作業を行った.以上の作業により,次のような知見が得られた. 1.従来バドラバーフ(『ニルユクティ』文献の作者)が十支の推理を説いていることのみが報告されていたが,彼の記述によれば支分の数は論証を聞く側の人間の能力によって変更されるものである.すなわち,証因のみ,喩例のみ,その両方などといった場合も考えられており,決して十支が彼にとっての最終結論ではない. 2.バドラバーフは,ジナの言葉が如何に正しいかを証明するという視点から推理に関わる議論を開始しており,最終的にはジナの言葉それ自体で正しいと結論づける.したがって,ジナの言葉の正しさを論証する場合,喩例の必要性は重視されない. 3.ジナバドラやハリバドラはバドラバーフの議論を土台としつつ,彼らの時代に隆盛を極めた,ディグナーガやダルマキールティといった仏教論理学派の見解に合致した形で推理論を展開している.したがって,彼らの推理論は一見,仏教論理学の焼き直しと見なし得るが,ジナや一切知者に関わる論証においてはジャイナ教の独自性を維持している. 上記3の知見を得るにあたって,ジナバドラのVisesavasyakabhasyaの読解を進めたが,その一部は平成16年9月に発行された『ジャイナ教研究』第10号において「ジナバドラのジーヴァ存在論証-ガナダラヴァーダ第一章和訳研究(1)-」として,翻訳を公表した・
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