2005 Fiscal Year Annual Research Report
バウハウスにおけるカンディンスキーの芸術および芸術思想の認知論的分析
Project/Area Number |
16720030
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
江藤 光紀 筑波大学, 大学院・人文社会科学研究科, 講師 (10348451)
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Keywords | カンディンスキー / 像の線状性 / 色彩の心理学的効果 / バウハウス |
Research Abstract |
昨年までの研究の延長上で、二点の論文を執筆した。「統辞と範列-カンディンスキーの初期コンポジションをめぐって」は、その作品に流れる構造についての意識を、言語学・記号論の概念を使って分析したもの。扱った作品はバウハウス時代以前を中心とするが、抽出された概念や構成は後期の作品にも応用が可能である。もう一つの特徴は、筆者のこれまでの研究が構図やフォルム・形態の分析を中心としてきたのに対し、色彩を扱ってそれを対象から自立した差異システムとして捕らえた点で、これはバウハウスでの教授法に至る思考の原形を成すものと考えている。 「ロシア・アヴァンギャルドとカンディンスキーの精神的水脈」は、ミュンヘンとバウハウス時代の中間に位置するソヴィエト時代(1914〜1921)に焦点を当てた。当時の同僚画家からも従来の美術史記述上からも、カンディンスキーが出自からも作風からも世紀末シンボリズムに近いとみなされてきたのに対し、記号論的な分析から明らかになる手法を考慮すると、世紀末芸術よりもむしろロシア・アヴァンギャルドの方向性と共鳴するところの多い進歩的な芸術・芸術観を持っていたことを明らかにした。 それとは別に本年度はドイツ・デッサウのバウハウス財団を訪問、同財団のアルヒーフで必要な資料を調査するとともに、現在はユネスコ世界遺産にも登録されている同校舎やマイスターハウス、テルテン集合住宅などを視察し、カンディンスキーのバウハウス時代の生活を追体験し、彼の働いていた環境も具体的に知ることができた。人々の生活様式そのものを近代化するバウハウスの考え方は、建築物のみならず壁の塗装法などに表れており、それがアーティストたちの暮らしにも及んでいることを知ったのは、今後の研究を進めていく上で大きな収穫であった。
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