2005 Fiscal Year Annual Research Report
古の画家との競合-プラハのマニエリスムにおける北方ルネサンス美術の受容と翻案-
Project/Area Number |
16720032
|
Research Institution | Kinki University |
Principal Investigator |
平川 佳世 近畿大学, 文芸学部, 助教授 (10340762)
|
Keywords | マニエリスム / 北方ルネサンス / スプランゲル / デューラー / 美術愛好家 / 風景画 / 初期ネーデルラント絵画 / プラハ |
Research Abstract |
2年次にあたる本年度は、プラハのマニエリスムを代表する画家B.スプランゲルについて、特に風景表現を中心に北方ルネサンスの受容の問題を検討した。スプランゲルは官能性にとむ裸体画を得意としたが、若き頃にはコルネリス・ファン・ダーレム等のもとで風景画家としての修業を行っており、1560年代にイタリアに赴いた後も、美術愛好家が好んだ小型風景画によって生計を立てている。この頃の作品は多くは現存しないが、現在、カールスルーエ州立美術館には1569年の年記と署名をもつ《母子と犬のいる風景》およびこれと極めて近い様式特徴を示す《隠遁僧のいる風景》が所蔵されており、初期スプランゲルにおける風景表現を検討するうえで貴重な資料といえる。2006年3月の調査では、同館の主任学芸員D.リュットケ博士の全面的な協力のもと、作品の精査および修復資料等の検討を行った。その結果、これら最初期の風景表現においては、初期ネーデルラント絵画の伝統的な風景表現が素直に表れているとの所見を得た。こうした作例と比較すると、《ヴィーナスとアドニス》(アムステルダム国立絵画館蔵)における初期ドイツ絵画風の風景は若き日の風景画家としての学習の成果ではなく、明らかに様式を擬態しての意図的な表現であることが改めて認識される。人物画家であることを標榜するスプランゲルにとって、人体表現に様式操作の余地はないものの、風景に関しては鑑賞者の要求に合わせて操作しえることがここに明らかとなるのである。こうした傾向は、ハインツによるクラナハやホルバイン作品の翻案等においてもみられ、いわば、プラハにおける北方ルネサンスの翻案の大きな特徴といえる。 上記に加えて、バイエルン公マクシミリアン1世に関連する作品も比較事例として調査中である。来年度は、こうした予備調査に基づいてさらに論考を進め、研究成果を著作として取りまとめる所存である。
|