2004 Fiscal Year Annual Research Report
万葉歌人大伴家持の防人同情歌群についての新しい分析方法の構築
Project/Area Number |
16720037
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
廣川 晶輝 北海道大学, 大学院・文学研究科, 助手 (40312326)
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Keywords | 万葉集 / 日本上代文学 / 大伴家持 / 防人歌 / 話者 / 発話 |
Research Abstract |
廣川晶輝単著『万葉歌人大伴家持-作品とその方法-』(2003年5月、北海道大学図書刊行会)上梓の過程で浮上した研究課題に、以下のものがあった。それは、「大伴家持は防人に同情して長歌作品を3作品制作したが、どのようにして第三者たる防人の心情に立ち得たのか、そしてその悲哀をどのような作歌方法を用いて歌に表わし得たのか。」という課題である。そうした問題意識に基づいて、当該研究課題においては、家持の作歌システム・作歌方法に迫り、研究を進めて来た。その成果をまとめたのが、全国誌『国文学 解釈と教材の研究』(平成16年7月号、学燈社)誌上の「大伴家持論-防人同情歌群をめぐって-」(96〜103頁)である。この論考においては、以下の分析を行った。 (1)<話者>の設定の分析 (2)防人の家人の<発話>が盛り込まれていることについての分析 (1)においては、 第一作品の<話者>=第三者の立場/第二・第三作品の<話者>=当事者の立場 という違いがあることを析出した。また、(2)においては、第二作品には発話する妻の存在があり、第三作品には発話する父親の存在があることを分析。それぞれの<発話>の機能について分析を加えた。そして、これらの分析を総合することにより、 <話者>の設定の仕方の違いと、<発話>の出現とは軌を一にする。 という結果を公表できた。そして、さらには、 このように、<話者>が当事者の立場に設定されている第二・第三作品において<発話>があることは、当事者の立場からより強く悲哀を述べることに機能していると捉えられよう。<他者>の立場に立ち、その悲哀を歌うことができる機微を、こうした点に見出せよう。 という結論を提示し得た。 残された1年の研究期間において、「<他者>といかに向き合うか」という大きな命題とも向き合い、当該研究課題を、古代日本精神史の把握の一助としたいと考えている。
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