2005 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16720044
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
尾崎 千佳 山口大学, 人文学部, 助教授 (50335759)
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Keywords | 近世前期 / 連歌学書 / 『産衣』 |
Research Abstract |
関西大学図書館中村幸彦文庫所蔵の新出連歌学書『紅葉草』八冊について、1)後半四冊分の翻字作業2)後半四冊分の引用書目及び引用歌句の出典調査3)『紅葉草』連歌説の検討を行った。 上記1)2)の結果、『紅葉草』には、源氏物語・伊勢物語・大和物語・狭衣物語・太平記等の物語から、日本紀・延喜式・文徳実録・年中行事書等の史書、万葉集や八代集等の歌書、八雲御抄・俊頼髄脳・顕註密勘等の歌学書、論語・白氏文集等の漢籍に至るまで、幅広い書目が引用されていることが明らかになった。さしたる稀覯書の類は含まれないものの、かかる典拠の広範さは、近世前期当時の連歌学の一端を窺わせるものと推察される。 上記3)においては、前年度の成果を踏まえつつ、『紅葉草』の連歌説と、元禄十一年刊『産衣』の連歌説を対照させることに、特に焦点を据えて作業を行った。その結果、『産衣』所掲の連歌説は、『紅葉草』のなかに全項目が取り込まれており、『産衣』が「異本」説として引く別解も『紅葉草』にそのまま反映されているという事実が判明した。また、両書の根幹をなす連歌説は里村昌琢の説であるのに対して、「異本」説の出所は石井了心や猪苗代兼如・兼寿であることが、幾つかの事例から浮かびあがってきた。すなわち、『紅葉草』『産衣』は、里村昌琢の連歌説を基盤として成立した連歌学書であって、里村家以外の連歌学説についても、一定の距離をとりつつ取り込んでいるという事情が想定されるのである。但し、『産衣』がいろは順に編成されているのに対し、『紅葉草』は事項別の形態を留めており、前者がより辞書的性格の進んだものである点も看過できない。『紅葉草』『産衣』は成立の基盤を等しくしながらも、その間には享受の形態に則した性質の違いも認められ、その分岐点の具体的把握については今後の考究課題としたい。
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