2004 Fiscal Year Annual Research Report
『古事記伝』の受容から見る『古事記』古典化過程の研究
Project/Area Number |
16720047
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Research Institution | Sapporo University |
Principal Investigator |
金沢 英之 札幌大学, 文化学部, 助教授 (00302828)
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Keywords | 本居宣長 / 古事記伝 / 古事記 / 服部中庸 / 三大考 |
Research Abstract |
平成16年度は、『古事記伝』の伊古事記』解釈の特色・その総体的理解のための作業を行った。 1.まず、研究者のこれまでの研究との関連で、『古事記伝』附巻である『三大考』の分析を行い、その内容を『古事記伝』と比較することを通じ、『古事記伝』の導き出した『古事記』理解の特色を検討した。 2.さらに、『古事記伝』における宣長の『古事記』神代の部の理解を検討し、より直接的に『古事記伝』の独自な主張を解明することを試みた。 その結果、1.の作業からは、『三大考』『古事記伝』に共通する要素として、宇宙のはじまりに出現した神々の「産霊」(ムスビ)の力を、世界生成の根本因として措定し、天と地の成立をふくめた世界生成の全体を、神の「産霊」による生成運動のもとに見通してゆこうとする傾向が認められた。 また、2.の作業からは、『三大考』に見られない『古事記伝』独自の主張として、イザナキ神の黄泉国からの帰還により、黄泉の穢れが人間世界に持ち込まれたことが原因となり、この穢れを祓おうとする力とのあいだで負/正の転換運動が次々と生じることになり、これが現在の人間世界においても、善悪があいついで生起するというかたちで世界のあり方を規定する動因となっているとする理解が認められた。 以上の分析を通じ、『古事記伝』が『古事記』の文献学的注釈という性格の作品ではない、あらたな神話言説を近世という時代に創出するテクストであったことを明らかにした。
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