2004 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16720063
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Research Institution | Teikyo Heisei University |
Principal Investigator |
水越 あゆみ 帝京平成大学, 健康メディカル学部, 講師 (50239232)
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Keywords | ロマン主義 / 比較文学 |
Research Abstract |
近代文学史の定説では、「浪漫主義」とは明治20年代から30年代にかけて活躍した2つの文芸集団の文学活動を指す。すなわち、明治20年代に文芸雑誌「文学界」のもとに集結した青年文人グループと、明治30年代に与謝野鉄幹、晶子率いる詩誌「明星」にて作品を発表した詩人・歌人グループである。両者に共通する特徴は、「自我」の解放とそれに伴う自然な「感情」の発露への賞賛にあるとされている。この「ロマン的/浪漫的」特徴は、明治日本においては封建的社会の桎梏からの解放という意味合いを強く帯びることとなった。それゆえ近代文学史では、ヨーロッパロマン主義とは歴史的な関係を持たない作家を、反社会的・反封建的・非現実的な傾向を持つという理由で「浪漫的」と見なすことが多い。しかし本研究では、比較文学的観点から、英国ロマン主義から直接的影響を受けている「文学界」グループを明治浪漫主義の体現者として扱っている。 「文学界」の中心メンバーである島崎藤村、北村透谷は、十代後半からWordsworth、Shelley、Byron、Keats、Shakespeare、Dante、Goethe等に原語(或いは英訳)で親しみ、これら西欧の詩人達の「ロマン主義」にインスパイアされて詩作を始めている。藤村、透谷の初期の作品を西欧詩人の詩句、詩形、テーマの稚拙な模倣であると退けるのはたやすい。しかし、藤村や透谷は「ロマン主義」を文体面においてただ模倣した訳ではない。彼等は「ロマン主義」の裡に新たな「自己(self)」の可能性を見出していたのである。従来、浪漫的自我解放の欲求は封建的な社会道徳との闘いという文脈で論じられることが多かった。本研究では、明治浪漫主義における「自我」の解放という文学史的クリシェを、「ロマン主義」を触媒とした「自己(subjectivity)」の模索という観点から再解釈を試みている。
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