2005 Fiscal Year Annual Research Report
18・19世紀フランス文学における噂と世論の役割についての研究
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16720066
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
博多 かおる 関西学院大学, 文学部, 専任講師 (60368446)
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Keywords | 18・19世紀フランス文学 / 噂 / 世論 / 集団的言説 / 個人 / 作品 / バルザック / ルソー |
Research Abstract |
18・19世紀フランス文学(特にヴォルテール・ルソー・バルザック・サンド・ゾラ)における噂と世論の捉え方について研究を続けた。1)近代における個人と集団の関係に、噂や世論がどのように関与してくるか、2)噂や世論の存在や流通を支える好奇心や言語流通のあり方、3)他者を認識することにおける噂や世論の意味、といった点について考えるにあたり、19世紀末の社会学者(ガブリエル・タルド、ル・ボン)や18〜20世紀の思想家の著作を参考にした。また19世紀の社交界や劇場に関連した記録(日記や手記等)を調べ、噂についての日常的な証言を調査した。 噂の言説には少なくとも二つの大きな問題点があることがわかった。一つは語る人間と言語の関係にまつわるものである。文学作品は他者と共に語ることによって架空の話を作ろうとする大衆心理のからくりを指摘する。ただし集団的言説を通じて集団的無意識の中に隠された欲望や歴史的記憶を解き明かそうという態度もあり、それは人間の日常生活を通じて歴史を描こうとしたバルザックに特に顕著である。 もう一つの問題は集団的言説の対象に関するものである。この種の言説には語られた個人の本質をむしろ隠蔽する危険がある。それは特に18世紀にルソーによって警告されたことでもある。この問題は19世紀に入り、特にロマン派の時代以降、個人と集団の対立という視点から論じられることが多い。また消費社会の発展に伴い、集団的言説は作品を商品のような投機の対象とすることにも寄与する。文学作品も大衆を語り大衆に語られるものとして複雑な機能を帯びてゆく。だがそうした文学作品こそが噂や世論の機能を複眼的に捉えることができその点において文学が社会学や哲学よりもはるかに大きな成果を上げていることは次第に明らかになってきた。19世紀に興隆をみた小説の力は噂・世論との相克により生まれたものでもあるのではないか。
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