2005 Fiscal Year Annual Research Report
エコクリティシズム(環境文学研究)へのサウンドスケープ理論の適用に関する研究
Project/Area Number |
16720072
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
結城 正美 金沢大学, 外国語教育研究センター, 助教授 (50303699)
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Keywords | サウンドスケープ / エコクリティシズム / 環境批評 / 環境文学 / 関係性 |
Research Abstract |
サウンドスケープは聴覚のみを強調するものではなく、聴覚的なるものをとおした感覚の再編を提案するものである。この動きは、近代の視覚偏重とそれにもとづく権力構造への異議申し立てとして20世紀後半に生じたわけだが、なぜ感覚の再編において特に聴覚への関心が強かったのか。それは、聴覚が物理的知覚のみならず、「耳を傾ける」という他者との向き合い方を包含しているからにほかならない。サウンドスケープ研究のベクトルは、<知覚する主体>と<環境>の両方、およびそれらの関係性に向けられるべきであり、その意味で表象という文学研究の斬り口がきわめて有効である。G.P.ナブハンをはじめとするアメリカ現代作家、田口ランディをはじめとする日本の現代作家の作品を検討材料とし、サウンドスケープの言語表象および現代社会における環境との向き合い方を検討した。 とくに田口作品の分析をとおして明らかになったことは、環境との関係を語ることの困難である。自然・環境との関係が分断した社会に生を享けた者(とくに若い世代)が、耳を傾けるという他者とのスタンスを強化しつつ関係性の経験を得たとしても、それを言語化することが容易でないということ。これは、現代社会に氾濫する自然との<共生>や<調和>といったスローガン的言葉(しばしばエコクリティシズムでも無邪気に使用される)の危うさを露呈するものであると同時に、関係性を語る新たな言語の模索が始まっていることも示す。 以上の考察は、その一部を、アメリカの文学・環境学会(ASLE)大会において発表した("Japanese Literary Soundscapes : Aural Dimensions of Environmental Imagination", Panel K9 "Asian perspectives on Modernization and Literary Environmentalism", The Sixth Biennial Conference of the Association for the Study of Literature and Environment (ASLE), Eugene, Oregon, 24 June 2005)。
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Research Products
(1 results)