Research Abstract |
本研究の目的は,言語音声(特に外国語音声)の音節リズムの知覚および産出を左右するさまざまな音声学的・心理学的要因を,音声知覚・音声産出の両側面から検討し,知覚と産出の共通点や相違点を探ることである.具体的には,要因を,(1)語彙的要因,(2)音韻構造に関わる要因,(3)音響的要因などに大別し,これらの要因と人間による韻律情報処理過程との関係を明らかにする. 計画初年度である平成16年度は,実験に必要なハードウェア・ソフトウェアの選定・準備に重点を置きながら,上記達成課題のうち,(2)音韻構造に関わる要因および(3)音響的要因に焦点を当てた実験を実施した(Tajima and Akahane-Yamada,2004;Tajima,2005).実験では,単語の持続時間(音響的要因)と音節内の子音の数(音韻的要因)を独立して操作するために発話速度の異なる様々な音節構造の英単語音声を刺激語とし,各刺激語に含まれる音節(syllable)の数を同定する課題を日本語母語話者に課した.その結果,被験者の正答率は刺激語の音節構造の変化に応じて上下するが,発話速度のみの変化ではほぼ一定であることが明らかとなった.さらに,別の音韻的要因として,刺激語内の子音の有声・無声を操作し,音節構造の言語学的定義に関わる「聞こえ度」(sonority)の差異が非母語話者の音節知覚にどの程度影響を及ぼすか検討した.実験結果によると,一部の音韻環境では有声・無声の効果が見られたが,全体的には正答率に変化がないことが示された.これらの結果は,音声の時間構造に特に敏感であると予想された日本語話者においても,外国語音声の音節を聞きとる際には発話速度の影響をほとんど受けないこと,逆に音節の知覚を最も大きく左右する要因は子音の数など音節構造の複雑さ(syllable complexity)に直接関わる要因であり,聞こえ度などの影響はごく僅かであることが明確にされた.すなわち,日本語話者による英語音声リズムの知覚特性を理解する上で,音節構造が極めて重要な役割を果たすことが改めて確認された.
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