2004 Fiscal Year Annual Research Report
近代日本における国制知の形成と展開に関する比較史的研究
Project/Area Number |
16720154
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
瀧井 一博 兵庫県立大学, 経営学部, 助教授 (80273514)
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Keywords | 国制知 / 伊藤博文 / 渡辺洪基 / 立憲国家 |
Research Abstract |
本研究は、近代日本の社会科学史を「国制知」という概念装置を用いて再検討することを試みるものである。「国制知」とは、「国制ファクターとしての知」とも言い換えられるが、そこで念頭にあるのは、国家統治のシステムと作用を正当化し合理化するための知の制度・理論、そしてそれらによって再生産される政治エリートである。そのようなものとしての知の体系は、およそあらゆる国家が内包しているものと考えられるが、この「国制知」の形成と展開を明治以降の日本において検証することが本研究の課題である。本年度は明治憲法の制定者たる伊藤博文に焦点を合わせた。明治憲法の父として名高い伊藤であるが、彼はまた同時に極めて知的な政治家であった。ここで知的というのは、伊藤が、立憲国家、そして近代国民国家にとっての知の意義と役割にとりわけ関心を注いでいた政治家だったという意味である。そのような意識のもと、伊藤は明治憲法の制定に先立ち、それをサポートし支えるための行政機構の確立に力を注ぐ。その一環として設立されたのが、帝国大学であった。それは立憲的行政を支える人材と理論を供給する基盤として位置づけられていたのである。そして、伊藤の意を受けて学術行政に辣腕をふるったのが、帝国大学初代総長・渡辺洪基であった。渡辺については定評ある伝記も存在せず、その生涯と事跡について不明の点も多い。東京大学大学史史料室には『渡辺洪基関係史料』として、渡辺のまとまった文書が残されている。次年度は、この史料を精査することによって、渡辺の業績の全容を解明し、伊藤と渡辺の連携の具体像と両者による知の指導のプロセスの考察を課題とする。特に、明治後期になって自立していく帝大アカデミズムが、伊藤・渡辺による構想といかなる関係に立つのかの究明を心がける。
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