2005 Fiscal Year Annual Research Report
近代日本における国制知の形成と展開に関する比較史的研究
Project/Area Number |
16720154
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
瀧井 一博 兵庫県立大学, 経営学部, 助教授 (80273514)
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Keywords | 国制知 / 国家学会 / 渡辺洪基 |
Research Abstract |
本年度は明治日本における「国制知」の形成を、帝国大学初代総長渡辺洪基(1848-1901)の生涯と事績を考察することで検証していった。渡辺の名は歴史上、決して高いものではないが、わが国の近代学問史のなかで再評価されて然るべき存在と考えられる。それというのも、彼が類い希な知のオーガナイザーだったからである。 渡辺にとって、知とは実学として、すなわち有用なものとして社会の各地各層に行き渡らせるべきものであり、そのために媒介者となることが彼の自己規定であった。そしてこの媒介とは、単に民間を水平的につなげていくのみならず、官民を連結させることにも向けられていたのである。明治十一年に創設した萬年会では当初西洋農学による中央から地方への啓蒙がなされていたが、その後明治十三年に開催された萬年会糖蔗集談会では中央の理論家と地方の実業家が集結し、製糖振興のための政策を政府に提言するという下から上へのシンクタンク活動が展開され、その方向はさらに国家学会、統計協会でも受け継がれていく。官学と私学の別を堅持した福澤に対して、渡辺の実学は両者を媒介・連結するものだった。他方で、渡辺には媒介者としての限界もあった。萬年会にせよ国家学会にせよ、学際的に国家のあり方を問うことを目的としていたこれらの組織は、専門分化の趨勢に抗えず、漸次先細りしていく。渡辺は明治初期の文明開化の理念、換言すれば明六社的な啓蒙結社の理念をあまりに強く引きずっていたのではないかと考えら九る。 もっとも、渡辺の組織化の論理には別様の評価も可能である。本研究の提起する「国制知」とは、国家の統治が有効に作用するためにそれを支える知の制度-理論と人の再生産機構-であるが、渡辺はこの「国制知」の重要な側面を体現していると思われる。官民を縦断する知の制度・あり方を構築しようとした渡辺の思想と活動は「国を制する知」の可能性を暗示しているともいえるのである。
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Research Products
(1 results)