2004 Fiscal Year Annual Research Report
18世紀後半から19世紀前半におけるイギリス財政革命の政治的・社会的影響
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16720174
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
坂本 優一郎 京都大学, 人文科学研究所, 助手 (40335237)
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Keywords | 投資社会 / イングランド財政革命 / 公債保有者 / 公債請負人 / イングランド銀行 / ナショナル・アーカイヴス |
Research Abstract |
本研究の目的は、「投資社会」論の構築・提示を通じてしイギリス財政革命の歴史的意義を社会史的・政治史的視点から再検討することにある。これは、国家が発行する公債保有から投資社会が形成されていくという政治的契機および、公債投資が投資社会において正当な経済行為として認知されるという社会的・文化的契機の双方を研究対象とすることによって、両者の接合をはかり、劇的に増加していった公債保有者の社会的実態や、投資社会と国家形成の相互作用を明らかにすることにほかならない。 本年度は三力年におよぶ研究のための基礎作業期間と位置づけ、社会的契機については、次年度に予定している本格的な考察のために、史料の収集・分析をおこなった。政治的契機については、本研究の理論的枠組みとなる「投資社会」論について、概念構築のための空間的枠組みを措定した。11月下旬に9日問のロンドン出張をおこない、ブリティッシュ・ライブラリにてパンフレットや新聞を閲読するとともに、イングランド銀行所蔵の公債保有者名簿、公債が遺贈遺産に含まれた場合に提出を求められた書類および、提出者属性を示した一覧を閲覧し調査した。さらに、ナショナル・アーカイヴズ(旧Public Record Office)所蔵の大法官府訴訟史料や、未利用の公債起債史料も調査対象に含めた。本研究費で購入したデジタルカメラ、パソコン、スキャナ、プリンタをもちいて、出張中に撮影した大量の史料映像を処理・分析し、統計処理をおこなった。データ・ベースを作成予定であるが、史料操作が困難でかつ、えられるデータが膨大なため、研究支援者雇用をともなうこの作業は次年度に繰り越すこととした。 これらの作業の結果、以下の成果を得て、その一部は論文として公表した。社会的契機については、時代が下がるにしたがい女性保有者が有意に増加する実態および、中小商工業者のあいだで遺贈財産として公債の利用が顕著になっていく実態を把握した。これらの発見事実については、次年度にさらに詳細な考察を与える予定である。また、政治的契機については、ナショナル・アーカイヴズ所蔵の史料から、ジュネーブと北イタリアを具体例としてイギリス政府公債保有者の空間的拡大を確認し、さらにこれまで不明であった著名な公債請負人と公債保有者の直接的な取引関係も確認することができた。成果の一端は、「空間としての投資社会」川北・藤川編『空間のイギリス史」(2005年2月)に公表し、本研究の空間的枠組みと「投資社会」論における国家の位置づけを提示した。『まだ、国家と投資社会を接合した公債請負人については、別に「18世紀ロンドン貿易商の家族史-ファン・ネック家の事例にみる文化の境界と社会的結合-」『人文学報』(京都大学人文科学研究所)第91号(印刷中)にまとめた。 なお、当初、初年度に着手予定であった「イングランド銀行の金兌換停止事件」は、イギリス出張時に現地研究者との懇談によって、「投資社会」論の枠組みを確定した後に具体的事例として着手するべきとの判断に達した。したがって、当初の研究計画を逆転して、次年度に着手予定であった公債保有者の分析を初年度に回し、「イングランド銀行の金兌換停止事件」については、史料収集を継続しつつ、次年度以降の課題とすることとしたい。
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