2004 Fiscal Year Annual Research Report
20世紀国際社会における環境保護論の展開とイギリス帝国
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16720176
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
水野 祥子 大阪大学, 文学研究科, 助手 (40372601)
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Keywords | イギリス帝国 / 環境史 / 森林保護 / 森林管理官 |
Research Abstract |
大戦間期に国際森林研究組織連盟(IUFRO)が主催した三回の国際会議を中心に分析した。特徴的なことは、開催地がいずれもヨーロッパであり、ヨーロッパの林学機関からの代表者が過半数を占めていたことである。それでは、植民地林学は、いかに国際的な環境保護主義の展開に貢献したのだろうか。イギリスの代表は、帝国各地の森林局や林学研究機関から参加していた。本国と同程度かそれ以上の人数が植民地から参加したのは、イギリスが森林保護を帝国の問題と考えていたこと、さらに植民地の問題関心が重要視されていたことを示すものである。インドをはじめ植民地の森林管理官は、イギリス帝国の一員として国際会議に参加し、かれらの関心を国際林学に反映させようとしたのである。また、乾燥化理論の重要性を認識する程度が各地域で異なっていたことも明らかにした。国際林学会議の目的は、世界規模で研究内容を交換することによって、その成果を国際的に活用し、普遍的な林学を確立し、普及させることであったが、当初は森林と浸食、気候との関係の解明は、林学の主要な課題とは見なされなかった。というのも、乾燥化は、ヨーロッパ諸国にとっては、さほど切実な問題とは認識されていなかったからである。ヨーロッパの林学機関の代表者で、この問題に言及した者はいなかった。一方、イギリスやフランスの植民地とアメリカからの代表者は、森林枯渇が土壌や気候に及ぼす悪影響を深刻に捉え、森林が環境に及ぼす包括的な影響について、国際的な関心を惹こうとした。かれらは議場で積極的に発言し、科学的な研究結果を発表し、この問題について動議を提出することで、乾燥化の問題を国際林学が取り組むべき課題にあげようとした。というのも、かれらにとって乾燥化は普遍的な問題であり、人類の未来を左右する課題であったからである。これは、コンサベーションのための育林技術の向上という方向へ流れていこうとする国際林学の展開に対し、森林が気候や環境の安定化に及ぼす影響力にも目を向けさせるのに役立ったと思われる。
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