2006 Fiscal Year Annual Research Report
キリスト教海外ミッションにおける女性の役割と近代的家族モデルの普及
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16720177
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Research Institution | Kobe City University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
並河 葉子 神戸市外国語大学, 外国語学部, 助教授 (10295743)
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Keywords | 女子教育 / ミッション活動 / イギリス帝国 / 家族モデル |
Research Abstract |
本年度はミッションが海外で展開した事業のなかで女性宣教師の果たした役割が際立つ女子教育ならびに女性や乳幼児に対する医療活動について検証し、非ヨーロッパ世界およびイギリス本国に及ぼした影響について考察した。 アメリカやヨーロッパ大陸などと比較して19世紀のイギリスでは女子に対する中等・高等教育過程の整備や専門職域への開放が遅れていた。このような状況は19世紀後半になると徐々に変化していくが、従来、このプロセスはもっぱらイギリス国内におけるフェミニズム運動の成果との関連で論じられてきた。しかし、女子宣教師の養成過程や、海外のミッション・スクールの教育内容の精査から、それらが本国の女子教育に与えたインパクトはきわめて大きいことがあきらかになった。つまり、19世紀後半に急増する女子宣教師たちが任地への派遣前に本国で受けた訓練は、教師としての専門職教育とほぼ重なるのである。また、海外で伝道教会が運営していた女子を対象としたミッション・スクールでも卒業生は教師として活動する例が多かった。 海外のミッション現場からの強い要請が本国の女子教育の動向におおきな影響を与えたもうひとつの事例が女性医師の育成である。アジアやイスラム圏では女性たちが男性医師に診察されるのを嫌うことから、学校と医療をミッションの社会的な活動の柱としていた各伝道協会にとり、女性医師の養成は急務となっていた。これを背景にイギリス本国とインドなど帝国においてほぼ同時に女性医師養成が開始されたのである。 非ヨーロッパ世界における教師や女性医師などに対する具体的かつ緊急度の高いニーズがイギリス本国の女子高等教育拡充のきっかけとなったこと、イギリスと帝国において女子に対する専門職教育開始の時期に大きな時期的な違いが見られないことなど非常に興味深い事実が浮かび上がった。 また、ミッション現場が専門職女性を求めたのは女性たちがレディであるからこそ女性や子どもたちにたいする適切なケアを行えるとの判断からであり、男性と女性の職域が実際に重複することはもとより想定されていなかったことも重要である。 女子宣教師はレディであると同時に専門性の高い知識を備えているという、本来矛盾する二つの要素を兼ねることが求められたが、これこそ、かのじょたちに課されたもっとも大きな任務がヨーロッパ近代に出現した特定の階級に固有のきわめて特殊な一夫一婦制に基づく「近代的家族モデル」を普遍的なものとして世界に普及させることであったこと、彼女たち自身がそのモデルとしていき方を具体的に提示する存在であったことを端的に示していることなどが明らかにできた。
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Research Products
(3 results)