2004 Fiscal Year Annual Research Report
後期旧石器時代における石器の製作技術と機能の移り変わり
Project/Area Number |
16720181
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
鹿又 喜隆 東北大学, 大学院・文学研究科, 助手 (60343026)
|
Keywords | 後期旧石器時代初頭 / 上萩森遺跡 / 笹山原No.8遺跡 / ペン先形ナイフ / 台形石器 / 台形様石器 / 米ヶ森技法 / 使用痕 |
Research Abstract |
(1)岩手県上萩森遺跡の技術・機能的分析を行った。石器の製作技術では、石刃技法が認められず、台形剥片の製作が主体となり、後期旧石器時代初頭の石器群と考えられる。出土層位、火山灰分析の結果も同様の時期を示す。多くの接合資料から、台形剥片の製作が米ヶ森技法と共通点をもち、分割礫や厚手の剥片を石核素材とする。一左、作業面と打面の設定位置に多様性がある点が米ヶ森技法と異なる。したがって、台形剥片の背面に自然面が取り込まれるものやポジ面を含むものなど、多様性がある。製作されている主な器種は、ペン先形ナイフ、台形様石器、米ヶ森型に類以した台形石器、台形剥片を素材としたスクレイパーなどである。これらの器種の素材は、ほぼ台形に限られ、一貫した石器製作技術により素材剥片が生産されるのが特徴である。 ペン先形ナイフ、台形様石器、台形石器などの使用痕分析を行った。ペン先形ナイフには明瞭な使用痕光沢が認められないが、舌状となる基部に輝斑が多く認められた。これらの輝斑は、ペン先形ナイフを柄から外す時に生じたと考えられた。実験では、剥片を使って、紐で柄に固定されたペン先形ナイフを、紐を切るなどして外した場合、同様の輝斑が生じた。石器同士の接触により、平坦な光沢面と線状痕が形成されたことを裏付ける。また、上萩森遺跡から出土したペン先形ナイフには、衝撃剥離痕と考えられる細長い剥離が、その先端側から生じている。装着痕および衝撃剥離痕の存在から、ペン先形ナイフが柄に装着した状態で刺突などの作業を行う、槍のような機能をもつことが推定された。台形様石器は、形態的にペン先形材ナイフのような尖頭部をもたないが、機能的にはペン先形ナイフと同様であることが使用痕分析により推定された。米ヶ森型に類似する台形石器は、主にポジ面や平坦面が残る側辺を刃部として、骨角や皮あるいは軟質の対象物に対して切る作業に使用されたと推定された。 石材調査の結果、遺跡に近接する北俣川および胆沢川で接合資料が含まれる石材のほとんどが確認され、遺跡近隣での石材採取と遺跡内での石器製作の関係が把握された。 遺跡内での石器製作の主体は台形石器の製作であり、原石の獲得から台形石器の生産、使用、廃棄の様相が明らかとなった。一方、ペン先形ナイフや台形様石器は、単独母岩であり、遺跡外から搬入されている。装着痕の存在もあわせて、維持性の高さがみられ、台形石器とは異なるライフヒストリーをもつことが明らかとなった。 (2)福島県笹山原No.8遺跡は後期旧石器時代前半に属する。石刃素材のナイフ形石器が多く、その使用痕分析を行った。明瞭な使用痕はみられず、輝斑が発達する様相を確認できた。機能に関して有効な情報は得られなかった。
|