Research Abstract |
今年度は,計画通り,自然科学分析を中心として,研究費を使用した。 昨年度出土したトマチン遺跡のヒスイの分析だけでなく,南西諸島全域のヒスイの分析を行なうため,X線マイクロアナライザーによる半定量分析を依頼した。その結果,南西諸島のヒスイ製品は,全て新潟県の糸魚川・青海産ヒスイであることが判明した。 現在,南西諸島で確認されている17点のヒスイ製品は,丸玉,管玉再利用型,扁平円盤状などが認められる。丸玉については,主に片側からの管錐穿孔の状況から見て,南西諸島で製作されたものではない。また,伊礼原遺跡出土のヒスイ丸玉は,横面形をみると,片側に偏った形態をしており,同じ製作過程を経ている可能性が高い。管玉再利用型は,同形態は九州・本州に存在せず,また,穿孔も両面からの回転穿孔を行い,さらに穿孔途中で放棄したものも見られる。さらに,同ヒスイ製品は,硬度の高い美しい垂飾という機能からみれば,日常的な行動から使用時に破損する可能性は少ない。これらのことは,管玉が南西諸島に持ち込まれ,同地で意図的に分割され,再利用された可能性を指摘できると考える。扁平円盤状も全く同じものは,本州・九州地域には存在しないことから,南西諸島の集団によるものであると考えるほうが自然であるように思われる。また,これらのヒスイは,所属時期の推定できる現段階の資料からすれば,縄文時代晩期前半〜弥生時代前期頃までの資料として絞り込める。南島貝交易の前段階における西北・北九州との交流という視点からすれば,黒曜石の南西諸島への流入現象と考えあわせると,弥生時代以前の「ヒスイの道」を実証できる可能性をもつ研究となった。 また,これまで行なわれていなかった奄美諸島の中世の土器の集成と,形態と所属時期の検討を行った結果,奄美諸島の土器もまた,沖縄・先島諸島の文脈に連なるグスク土器として分類可能な土器であると考察した。
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