2004 Fiscal Year Annual Research Report
タイ東北部農村における医療実践の多層性についての人類学的研究
Project/Area Number |
16720212
|
Research Institution | Fukui Prefectural University |
Principal Investigator |
津村 文彦 福井県立大学, 学術教養センター, 講師 (40363882)
|
Keywords | 文化人類学 / タイ / 民間医療 / 知識社会学 / 科学と宗教 / 薬草治療 |
Research Abstract |
初年度の研究では、タイ国東北部における薬草師の村落レベルでの活動実態について概括的な把握を行った。主たる調査地は、コーンケーン県ムアン郡デーンヤイ地区の複数村落とし、村落の薬草師への聞き取りと参与観察を中心としたフィールド調査を実施し、当該地域における伝統医療に関して一次資料を収集した。現段階までで得られた知見を大きく2点に分けて記述する。 (1)「医療実践の二元性」内部の多様性:東北タイ村落部においては、薬草治療などの「伝統医療」と病院を拠点とする「近代医療」が見られ、住民は機会に応じてそれらをともに利用している。この状況は従来の医療人類学的研究で「医療の二元性」と記述されてきたものである。このうち「伝統医療」の内部には、より呪術的傾向(呪文、聖糸、聖水の利用など)の強いものから、近代薬学的傾向の強いものまであり、グラデーションに富んでいる。個々の薬草師(伝統医療師)の医療実践を詳細に描くことで、単純に「医療実践の二元性」という言葉で語られていたものの内部の多様性を指摘することが可能となる。 また薬草師のなかには、カルテに類似した形での患者データの保持、病院で使用された療法と医薬品についての情報の聞きとり、近代医学的病因論の理解など、さまざまな形で「近代医療」の要素を取り込んでいるものがあり、「伝統医療」という枠組みそのものが問い直されている状況がうかがえた。 (2)村落の専門家の好奇心と知識獲得:タイ東北部においては、薬草師をはじめ、呪術師、産婆などは「モー」と呼ばれる。「モー」はある種の専門的知識を用いて活動を行う職能者であり、近代医療の医師もまた「モー」である。村落のモーのライフヒストリーを聞き取る過程で、彼らの「好奇心」が非常に強いことが浮かび上がってきた。また他の住民に比べて、記憶能力が高く、「察しが良い」場合が多い。ここの<好奇心の強さ>あるいは<頭の良さ>というキーワードを軸にすることで、学校教育とは異なった知識の獲得過程についての示唆が得られる。
|
Research Products
(1 results)