2005 Fiscal Year Annual Research Report
タイ東北部農村における医療実践の多層性についての人類学的研究
Project/Area Number |
16720212
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Research Institution | Fukui Prefectural University |
Principal Investigator |
津村 文彦 福井県立大学, 学術教養センター, 講師 (40363882)
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Keywords | 文化人類学 / タイ / 民間医療 / 知識社会学 / 科学と宗教 / 薬草治療 |
Research Abstract |
本年度は、初年度の全体的把握を背景として、村落でのインタビューに基づき個別のエピソードの収集を中心に調査を実施した。得られたデータはおおよそ次のように総括できる。 (1)村落内で治療を行う病い:多くは農業労働に起因するもので、頭痛、肩・腰・足の痛み、神経痛など。これらについては村落内の呪術師、薬草師あるいはマッサージ師を頼ることが多い。 (2)薬草知識の多層性:一般的な村人も家庭菜園に意図的に薬草を植え、子供の下痢など簡単な病の際に利用している。その多くは親などから伝達された知識である。一方、薬草師と村人に称される者は、一般的な村人よりもはるかに多くの知識を持っている。食物についての[冷-熱]理解や、病因としてのタート(伝統的な病因の要素)について、人によってはかなり体系だった知識を保持している。そうした体系だった知識を持つ者の中には、国家試験を受け、「伝統医療師」としての免状を取得することを積極的に目指す者もおり、国家的な地方文化の文脈の中で現代的な薬草師の様相を呈している。 (3)蛇毒吹き師にみる伝統医療の「効果」:村落に蛇毒吹き師(moo pau nguu)という治療専門家がおり、蛇毒やクモ毒の解毒を行う。施術は他の呪術師・薬草師に似ており、施術前の呪文詠唱、供物の規定、「呪術」を伴う施術、術師のタブー遵守などの特徴はその他の知識専門家(モー)と共通している。だが蛇毒吹きしについて注目するべきは、その治療対象である。従来の伝統医療研究の中で、それらが治療対象としてきたものは、慢性の病、あるいは精神疾患ではなく、蛇の咬傷治療と解毒という現代医療が得意とするものであり、そうした分野で積極的に役割を果たしてきた蛇毒吹き師の治療行為においては、治療が「効く」という「効果」の部分について、伝統医療と現代医療で意味づけが異なっている可能性があり、「信じる」ということがこの問題を考えるうえで重大な論点をもたらすことが予測される。
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Research Products
(1 results)