2004 Fiscal Year Annual Research Report
和歌・歌物語にみる平安貴族の意識構造--日本における「政治」批判の典型の成立
Project/Area Number |
16730001
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
桑原 朝子 北海道大学, 大学院・法学研究科, 助教授 (10292814)
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Keywords | 和歌 / 歌物語 / 伝奇小説 / 貴族 / 意識構造 / 政治 / 法 / 社会構造 |
Research Abstract |
本研究の目的は、平安中期の和歌および歌物語を、同時代の法制史料等と比較しつつ分析することによって、その中心的な担い手であった文人貴族や没落した血統貴族の、政治の場からは意図的に距離をとり文芸の世界に閉じこもることで天皇や僅かな貴族の利害調整でしかない「政治」を批判する、という意識構造を解明することにある。 今年度は、まず文学史料の分析に取り組んだが、とりわけ物語の分析の過程において、中国唐代のいわゆる伝奇小説がそれらに決定的な影響を及ぼしていることが明らかになった。伝奇小説の作者の多くは、科挙官僚(ないしその予備軍)であるが、小説の内容は諷諭詩などと違って政治性の乏しい題材を扱っており、敢えて政治の場から離れ、より個人的な自由を享受しようとするという、平安朝の物語の担い手と類似の傾向が見られる。このことは、彼らが自らの生きる社会の「政治」や「法」に無知であったわけではなく、その問題点をむしろ鋭く意識していたことを示していると考えられる。また、伝奇小説が安史の乱後に特に隆盛を迎えることも、平安朝の物語が菅原道真の左遷に象徴される10世紀初頭の大きな社会変動の後に集中的に現れることと類似しており、注目される。双方の文芸作品が社会構造の変化とそれぞれ密接に関わっていることを推測させるからである。現存する伝奇小説や物語のテクストは、複数回の増補や改変を経ており層位学的分析を必要とするが、これをさらに丹念に行えば、他の史料からは知り得ない社会構造の通時的な変化を明らかにすることができると思われる。この見通しの下に、来年度は、和歌・歌物語・伝奇小説の分析を引き続き行うと共に、法制史料や貴族の日記等の分析も加え、平安中期の貴族と社会構造、および「政治」の関係についての考察を深めてゆきたい。
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