2005 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16730002
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
大森 秀臣 岡山大学, 法学部, 助教授 (10362948)
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Keywords | 共和主義 / 公共性 / 審議的デモクラシー / スピッツ |
Research Abstract |
本研究は三年計画で進める予定であるが、本年度は二年目にあたる。本年度は、昨年度から着手した理論研究を発展させ、来年度に一つの理論構想としてまとめるための、いわば過度的な研究を行った。具体的には、以下のような作業に取り組んだ。 まず、以前から引き続き取り組んでいたフランスの政治哲学者ジャック・ランシエールの政治論を検討した。ランシエールの政治論は、ギリシャ時代の古典哲学やフランス現代思想を踏まえ、極めてラディカルな政治概念を提示するものである。それは、本研究の目的である「法の公共的正統性」を与える政治の構想に大きな示唆を与えるものであり、従来検討してきた共和主義の政治との異同を検討することを通して、法の公共的正統性をもたらす政治の特徴を浮き彫りにする一助となった。以上の研究は、ランシエールの著書の仏語翻訳を含んでいるが、そのなかの一部の訳は松葉祥一・大森秀臣・藤江成夫訳『不和あるいは了解なき了解 政治の哲学は可能か』(インスクリプト)に所収されており、今年度の4月に公刊されている。 またこれと同時並行して、昨年度得られた全体的な大枠とパースペクティヴをもとに、審議的民主主義や立憲主義的共和主義をはじめとする様々な政治哲学系の文献を購読し、法的枠組みに規律されると同時に昇華しうるような政治的審議の捉え方について、さらに理論を発展させた。この作業は、昨年度公表した論文「法を支える政治、政治を律する法-マイケルマン=ハーバーマス法理論をもとに」で示した暫定的結論から、従来公表してきた幾つかの論考を再度構成することを通して進められた。これらの論考は、従来それぞれ異なる問題関心から著されてきたが、次第に固められつつあった「法の公共的正統性」の問題のもとに、再度まとめることが可能である。本年度はこの作業に多くの時間と精力を割いてきたが、来年度にはこの作業を完成させ、3年計画のいわば集大成として、著書『共和主義の法理論 公私分離から審議的デモクラシーへ』(勁草書房)を公刊することを予定している。 さらに以上の作業のサイドワークとして、フランスの政治哲学者ジャン=ファビアン・スピッツの自由論をも吟味した。この作業は、本研究が対象としている法と政治との社会システム間の関係を、自由論の側面から検討するものである。現在、この自由論の研究をさらに掘り下げるべく、コンスタンやバーリン、マッカラム、テイラー、スキナー、ペティットら、近年のリベラリズムと共和主義の自由をめぐる様々な議論を対象とし、それらが本研究の課題にいかなる示唆を与えうるかについて研究しているところである。
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