Research Abstract |
持続的競争優位の源泉として,組織能力に注目し,組織能力の形成過程における情報通信技術のインパクトを解明することが,本研究の主題である。 組織能力論の領域では,「独自性の高さ」を「模倣困難性」に直結して議論される傾向が強い。そのためか,ともすれば,『カネと時間」のかかる「複雑なシステム」を構築すれば,高い模倣障壁を構築できるという安直な議論に終始するきらいがある。しかし,一見しただけでは容易に模倣できそうなのに,現実には模倣できない仕組みこそが,模倣困難性の高いシステムと言えまいか。本研究では,「複雑性」と異なる時限の模倣困難性の論理に注目した。それは,既存組織の「慣性」に逆らい「自己否定」につながるシステム設計思想こそ,最大の模倣障壁であるという考え方である。言葉を換えれば,日常業務活動の背後に存在する「暗黙の前提」の変革を迫るような『事業システムの設計思想」を受容することは,極めて困難であるということだ。 さらに,情報化は,日常業務活動の「編成原理」というべき「事業システムの設計思想」を,現場のワーカー自身に内省する契機となることを明らかにしてきた。さらに,顧客や取引先との電子的結合により,異なる価値観をもつ組織貢献者の「発想」に触れることにより,現場ワーカー自身が,従前の業務活動の「意味」を内省し,理解しようとするとき,イノベーションと呼ぶべき「新しい事業の論理」が生まれる。このような論理は,組織活動の背景に見え隠れする文脈性(コンテキスト)の創造と言える。組織能力の開発は,コンテキストの創造に他ならない。 初年度では,このような理論枠組みの構築と予備的事例研究を進めるにとどまった。今後,研究を進めていきたい。
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