2004 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16730250
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
清水 亮 山梨大学, 大学院・医学工学総合研究部, 講師 (40313788)
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Keywords | 諫早湾干拓事業 / 環境影響評価 / 持続可能性 / リスク / リスクコミュニケーション / 補償 / 予防原則 |
Research Abstract |
平成16年度の研究では、諌早湾干拓事業を巡る一連の問題について、これまでの経過を整理することを中心に作業を行った。諫早湾干拓事業は1983年に計画され、環境アセスメント(1986)を経て1989年に着工された。潮受け堤防による湾内の閉め切りが1997年に実施され、この直後から有明海全域に及ぶ漁獲高減少、ノリの色落ち被害が発生した。アセスメントの時点では漁業被害はごくわずかと見積もられ、地元漁民もこれに従って事業への同意を行っていた。しかし着工後に湾内で著しい漁業不振が発生し、漁民による事業反対運動が勃興した。潮受け堤防による閉め切り後、一挙に拡大した漁業不振に対し、この原因は干拓事業にあるとして事業中止を求める運動が漁民を中心に激化した。2004年8月、佐賀地裁で工事中止の仮処分決定が下され、国(農水省)の矛盾を初めて裁判所が認めた形となった。また、漁民側は公害等調整委員会に原因裁定の調停を提出しており、判断を待つている状況である。 焦点となるのは漁民に対する事前説明である。漁民を対象としたヒアリング調査の成果によると、ここでの農水省や県が漁業者に対して行った説明は漁業影響はほとんどないという内容のものであり、この時の漁民側の受け止め方は漁業経営に打撃を及ぼすような事態は起こらないというものであった。しかし、干拓工事の進行と機を一にする漁業不振は深刻であり、漁民生活は持続の危機に立たされた。現時点で本事例を考察すると、リスクコミュニケーションが不十分であったこと、現在でも科学的因果関係ははっきりとしておらず、また将来的にもこれがいつ確定するかは不透明であること、といった難しい問題がいくつかあることがわかる。事態の推移を継続的に見つめながらも、こうした状況下で漁業生活者をどのように救済可能なのかを考察する必要があるだろう。
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