2005 Fiscal Year Annual Research Report
引きこもり経験者の「社会復帰」:実践コミュニティとアイデンティティーの視角から
Project/Area Number |
16730252
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
荻野 達史 静岡大学, 人文学部, 助教授 (00313916)
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Keywords | 社会的ひきこもり / 青年期移行問題 / アイデンティティ / 中間施設 / 若年者就労問題 / 対人関係 / 参与観察 / インタビュー |
Research Abstract |
「ひきこもり」当事者・経験者のための社会復帰支援施設が調査対象であり、いわゆる中間施設から外部社会への移行をめぐる諸問題・諸条件について検討することが、二年間を通してのテーマである。本年度の前半期は、東北地方にある施設での参与観察とインタビュー調査を継続し、後半期には昨年度以降のデータをもとに投稿論文を執筆した(現在第1次審査を受けて修正中)。 中間施設への適応は、それまで対人関係を極度に限定してきた青年たちにとって、それ自体、時間のかかる過程である。しかし、適応の果てに求められるのは、集団からの離脱である。この「適応」がスムーズに「離脱」に繋がることは難しい。調査からいえることは、「適応」についてみると、より緩やかな時空間のなかで、個々人の状況に配慮した諸活動への「さそい」が丁寧になされていくことであり、 反面、中間施設内部での適応は、利用者に自尊心の支えを提供はするが、「施設外部」での「自己可能性感覚」を想像的に醸成する側面において十分ではない。この可能性の感覚を育てるには、支援施設の外部にいる「他者」からの承認と、その「他者」をモデルとした「生き方についての想像」が有効である。そのことは、東京の施設が考案した就労訓練システムについての聞き取りなどによってある程度確認された。 したがって、中間施設における中核的課題とは、この定着・適応の側面と離脱の側面との原理的にはしばしば背反する関係に配慮しながら、そのバランスを取っていくことである。この点は、支援施設のスタッフにはよく認識されているところではあるが、実際的には非常に困難な作業となっている。研究成果としては、その様相を参与観察と施設利用者へのインタビュー(アイデンティティのあり方)とによって記述的・解釈的に明らかにしたことである。
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