Research Abstract |
小学生や幼児が,どれくらい自分の過去の出来事について覚えているのか,また,どのように自己の過去を認識しているのかについて,主に,縦断的なインタビュー調査により調べた。その結果,どの年齢帯の子どもにおいても,自覚的に遡って思い出せる一番古い記憶は,3,4歳頃である可能性が高いことが示され,成人のみならず,既に子どもの時期から乳幼児健忘(ある一定の乳幼児期の出来事を意識的に思い出せない現象)が存在することが示唆された(上原,2005)。「・・した」と過去形の文で報告できるようになる年齢が2,3歳頃であることを考慮すると,乳幼児健忘の原因は,過去の出来事を語るための言語能力(「語り(ナラティブ)」能力)の欠如ではないことが伺える。むしろ,自己の内面の意識化,過去という認識,自分が経験したという認識,などが関わり,エピソード記憶そのものの成立と関連しているように思われた。数人の子どもの縦断的データにあたり,4歳未満と4歳以降でみられた事例を詳細に調べ,過去の出来事の語り(エピソード報告)の様子について検討した結果,4歳未満では,明らかな間違いを含む報告が多いものの(想像上の話や伝聞情報を実体験として話すなど),4歳をすぎると,その報告はより正確になることが示された(Uehara,2005)。他の広範囲な認知能力でみられる4歳での劇的な発達変化と深い関係にあることが推測され,個々の4歳前後の変化がどういう関係にあるのか,引き続き検討したい。また,縦断的調査より,環境が変わる(幼稚園から小学校へ変わる,小学校のクラスが変わる,引っ越し等)と,変わる以前に経験した出来事について自ら語ることが極端に少なくなるという印象もある。周囲の環境の変化の視点からも,個人の過去の出来事の語りについて今後検討していく必要があると考える。
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