2004 Fiscal Year Annual Research Report
ラマン分光によるバナジウム酸化物の軌道波励起の観測
Project/Area Number |
16740192
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
宮坂 茂樹 東京大学, 大学院・工学系研究科, 助手 (70345106)
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Keywords | 軌道の自由度 / 軌道波 / ペロブスカイト / バナジウム酸化物 / ラマン散乱 / two-orbiton |
Research Abstract |
本研究課題では、遷移金属酸化物における遷移金属サイトの軌道の自由度の量子状態に着目し、軌道波と呼ばれる軌道自由度の素励起や、量子化された軌道波、"orbiton"の発現機構の詳細を調べることを目的としている。本年度は軌道整列現象を示すペロブスカイト型バナジウム酸化物、RVO_3を対象物質として、軌道波の観測及びその発現メカニズムの解明を行った。特に研究初年度にあたる本年度は、本系が示す軌道整列現象のうち、G型軌道整列現象とそれに伴なって出現するC型反強磁性磁気秩序に着目し、これらの磁気・軌道秩序状態を示す典型物質としてLaVO_3とNdVO_3を取り上げ、その軌道波に関する研究を行った。 本研究において、赤外線イメージ炉を用いた還元雰囲気による浮遊帯域溶融法により、LaVO_3とNdVO_3の良質な大型非双晶単結晶を育成することに成功した。また、既存のラマン分光系を改良し、更にアルゴンイオンレーザー(波長:514.5nm)とヘリウム-ネオンレーザー(波長:632.8nm)を分光系に組み込むことにより、精密な偏光依存性の測定と、異なる波長のレーザーを励起光として用いたラマン散乱の測定が可能になった。これらの、大型結晶の育成と測定系の改良により、軌道波の観測が可能になった。 ラマン散乱を用いてLaVO_3とNdVO_3における軌道波の観測を行った結果、当初予想していたように、C型磁気秩序とG型軌道整列により発生した異方的なスピン-軌道のパターンを反映して、c軸方向に偏光をかけた場合にのみ、軌道波と予想されるラマン散乱スペクトルを観測した。また、このスペクトルは極端に非対称で、線幅の広い形状をしている。以上の、スペクトルの形状やc軸方向への一次元性などの特性から、このラマン散乱スペクトルが、格子や磁気秩序に関連した素励起、フォノンやマグノンである可能性は否定される。更に、励起光の波長依存性を調べた結果、このスペクトルは本系のMottギャップのエネルギーと一致する波長を持つ励起光を使用した際に、極めてスペクトル強度が増大することが判明した。この励起光依存性から、今回観測したラマン散乱スペクトルが、散乱プロセスの始状態と終状態でc軸方向に隣接した二つのバナジウムイオンの占有された軌道が入れ替わる"two-orbiton"によるものであることが判明した。この"two-orbiton"は、本研究において初めて観測に成功した素励起で、全く新しい物理現象を提示したという点では、本年度は当初の研究目的を達成できたと考えている。
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Research Products
(6 results)