2005 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16740217
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
中川 尚子 茨城大学, 理学部, 助教授 (60311586)
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Keywords | 隠れた熱流 / オンサガー相反関係 / 熱ポンプ / 折りたたみ過程 / 有効温度 / ファネル |
Research Abstract |
本年度は、昨年度の成果をより一般的な記述へ昇華することを目標とし研究を実行した。 (1)Feynmanラチェットに代表される、定常熱流下で揺らぎを利用して働く熱機関に着目し、その動作原理についての普遍的説明を追及した。 一回の熱励起過程において、系は励起のために熱浴からエネルギーを前借し、エネルギー障壁を越えた後に同量のエネルギーを熱浴に返す。エネルギーは総量としてっじつまがあっていればよいので、複数の熱浴に接した構造的に非対称性を有する系では、各熱浴から借りるエネルギー量と返すエネルギー量の間に任意性があることになる。実際、数値計算により各熱浴との熱のやり取りを調べた結果、平衡状態でも一励起過程あたりに熱浴間に流れる「隠れた熱流」が同定された。さらに、この熱量を用いてオンサガー相反係数に直感的説明を与えられることを見出した。これにより、熱浴間に温度差があれば具体的に駆動力となること、隠れた熱流の符号によって駆動された粒子流の方向も決定されることが一般的な原理として明確にできた。 (2)タンパク質の遅い緩和過程および遅い折りたたみ過程の特徴づけを試みた。 昨年度の研究により、inherent structureで特徴付けたエネルギーランドスケープの状態密度は、平衡状態での構造揺らぎや折りたたみ転移といった熱力学特性が説明することがわかった。本年度は状態密度のエネルギースケーリングに着目し、その指数がファネル固有であること、それを受けて緩和特性が変わることを見た。ランダムコイルの状態からの折りたたみ過程は、あるファネルの中をゆっくりと降りていく過程に相当している。折りたたみ時刻をそろえたアンサンブルをもとに、非平衡状態でのinherent structureエネルギーとエントロピーを同定することにより、平衡到達度(折りたたみ完成度)を温度パラメータとして表現した。この温度は非平衡では高く、平衡状態に到達すると熱浴温度に到達した。
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