2004 Fiscal Year Annual Research Report
結合振動子としての生命システムの自律分散的な機能発現と位相ダイナミクス
Project/Area Number |
16740243
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
猪本 修 九州大学, 大学院・システム生命科学府, 特任助教授 (50332250)
|
Keywords | 細胞間相互作用 / 結合振動子 / 位相ダイナミクス / 自律分散系 / 極微弱生体発光 / 活性酸素 |
Research Abstract |
多細胞システムの結合性・協調性と機能発現の関係を物理的観点から明らかにし、システムの自律分散機構を細胞間引き込みによる組織的ネットワーク形成として記述する為に、細胞を2次元的に分散培養した系における細胞集団の運動(遊走)、分裂増殖などのダイナミクスの時空間相関を調べた。 まず培養細胞の2次元位相差像を長時間にわたって継続的に観察するための実験系を構築した。その上で、多細胞性の動物細胞(HeLa)の2次元界面上での運動と増殖をさまざまな生理条件・細胞密度の下で観察した。この細胞は情報伝達チャネルであるギャップ結合を失っているために細胞間の自律的な増殖調節機構が機能しない。それにも関わらず、細胞運動や分裂サイクル位相は、局所的には同調し、空間的コヒーレンスを示すことが実験的に分かった。またこのコヒーレンスは細胞同士が互いに接触せずある程度離れていても同様に見られる。このことは、細胞間にはギャップ結合を介さない長距離型の相互作用機構が存在することを示唆するが、この生理的背景はこれまで知られていない。 そこで次に、細胞間の代謝活性相関を検出する指標を確立するために、細胞呼吸によって産生する活性酸素に着目した。細胞に備わる活性酸素消去機構によって分解されずに残留する余剰活性酸素は細胞膜や細胞内オルガネラを酸化しDNAに損傷を与えるが、このとき開放される電磁エネルギーが可視波長域のフォトン(極微弱生体発光)として放出される。そこでこのフォトンを超高感度光電子増倍管により検出することで、細胞動態をモニタリングすることができるか否かを実験的に検討した。その結果、細胞の代謝活性はフォトン発光量と相関があることが分かった。この検出法を用いて細胞の運動状態による代謝活性を計測したところ、多数の細胞が同調して増殖する場合とランダムに増殖する場合には、発生するフォトン量に有意な差異が見られた。すなわち細胞間の位相分布が、系全体の代謝活性量に反映することが明らかになった。 これらの発見は細胞間相互作用とマクロスコピックな多細胞システムの代謝機能との連関を示すものであり、新しいタイプの細胞結合機構が系全体の代謝レベルを制御していると推測される。これについて今後さらに詳しく調べる予定である。
|