Research Abstract |
本年度の研究の実施については,現地での計測測定とこれまでに取得されたデータ解析の2つの項目が挙げられる. 計測測定については,本科学研究費補助金による活動として1)2つの渦相関システムによる熱およびCO2フラックスの直接測定<2004年5月〜2005年3月>,2)miniTrackaの導入によるクロロフィル連続計測<7月および8月〜11月の2期間>,3)水質の集中観測(pCO2,DIC, DO,塩分)の実施<春季5/25〜6/4,夏季7/25〜8/7,秋季9/23〜30>を行なった.また,本研究課題に伴う京都大学防災研究所からの協力によって,4)連続pCO2計測装置SAMIによるpCO2連続観測<4月〜6月7月,8月〜11月の4期間>,5)ADCPによる流向・流速データ取得<通年>,6)超音波波高計による有義波高・周期データ取得<通年>の計6項目である. 取得データの解析については,1)pCO2連続計測データと波高の相関解析,2)渦相関データの長期連続解析によるフラックスの長期変動の環境要因把握,3)フラックス計測における慣性消散法の適用妥当性の検討,の3つのテーマについて重点的な解析を行なった.3つの主な成果を以下に列挙する. ・pCO2と有義波高の間に時間差を伴う相関がみられた.海水中のpCO2が平均的に大気中のCO2分圧よりも低い冬季には,有義波高が大きくなると3〜6時間後にpCO2が高くなるという正の相関がみられる.これは,冬季の生物活性が小さいが日本海の冬季季節風によって励起された風波によって大気から海洋への物理的な取り込み作用が働くためであると考えら,れる.一方,夏季には一般的に波が穏やかであり,海水中の植物プランクトン等活動も活発となるため,波とpCO2の相関はそれほど高くない.また,秋季のpCO2は大気中の分圧とほぼ拮抗するため,波が高くなる場合にもpCO2の変動に大きな影響は出なかった. ・渦相関CO2フラックスの長期データからは,2つの測定システムはほぼ精確にCO2フラックスを測定できているが,水蒸気変動の信号に測器固有の測定誤差が生じることで,水蒸気フラックスが2倍程度異なる場合が散見された.これは,WPL補正にともなう潜熱の補正項に大きく影響するものであり,水蒸気フラックスの精確な見積りと測器固有の信号バイアスの問題を解決する必要があることが明らかとなった. ・海洋上でのCO2フラックスを見積る上で,渦相関法に次ぐ有望な手法である慣性消散法の適用可能性を探るために,運動量フラックスの比較を行なったところ,両者の相対誤差は安定度が-1<z/L<0.5の中立に近い区間では良く一致したが,不安定が強い(z/Lが大きな負の値)場合には,渦相関法による運動量フラックスが過大評価となる結果となった.また波齢が大きい(うねりの)条件下では,渦相関法が慣性消散法よりも過大評価される傾向が強くなり,「慣性-消散の平衡仮定」により見積られるコルモゴロフ定数の値が大きくなる(波齢依存)ことから,慣性消散法の適用には,下部境界面である海面の状況が制約条件になることが明らかとなった.
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