Research Abstract |
(1)水蒸気同位体観測法の確立 購入予定だった市販の除湿機が製造中止になり,入手困難になってしまったので,同様の機構をもつ除湿機の試作を現在検討している。また,装置を開発することになったので,除湿剤も,同位体観測に最適なものを選択するために,様々な種類のものを入手して試験を行っている。 (2)シベリアにおける広域同位体観測ステーションの設置 今年度は,シベリア域で,水蒸気捕集観測を現地機関に委託して観測を始める予定であったが,上記の理由で,捕集装置の開発が遅れており,今年度のシベリア観測は断念した。代わりに,今年度はチベット高原での観測に参加する機会に恵まれたので,従来の水蒸気捕集装置を用いて大陸内部における水蒸気捕集試験をチベット高原で行った。チベット高原では,水蒸気捕集装置を高さ3mのところに設置して観測を行い,この変動を降水の同位体比変動と比較を行った。結果は,水蒸気の同位体比は観測期間中,非常に大きく変動し,特に擾乱の通過に伴って大きく値が減少する傾向を示した。この傾向は,降水の同位体比の変化と同様であり,このことから,大陸内部では,高度3m程度に装置を設置すれば,大気循環場を反映した試料を採取できることが明らかになった。 (3)同位体大循環モデル結果の検証 本年度,旧版のCCSR/NIES大循環モデル(5.4g)に組み込まれていた同位体スキームを,現行版のCCSR/NIES大循環モデル(5.7b)への移植を行った。旧版から現行版への移行では,陸面スキームが大きく変更されていたので,それに併せて同位体スキームの改良も行った。改良後,陸面スキームの検証を行うために,昨年度チベット高原で観測した気象データを陽的に与えてチベット高原での陸面からの蒸発水の同位体比を予報し,これを観測値と比較した。結果は,従来の同位体スキーム(陸面からの蒸発はすべて蒸散であると仮定)では,観測値を再現することができず,陸面からの蒸発水の同位体比を正確に再現するには,土壌面からの蒸発効果を加味しなければならないことが明らかになり,現在そのスキーム開発を行っている。この知見は,今回,水蒸気の同位体観測をすることによって明らかになった知見であり,水蒸気の観測を行うことは,同位体大循環モデルの開発に非常に有益であることを証明している。
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