Research Abstract |
近年,元素の重い極限領域における電子状態に関する情報を得ることを目的として,重元素,とくに原子番号103を超える超アクチノイド元素(超重元素)の化学的性質を調べる研究が脚光を浴びている.昨年度は,理研加速器研究施設リニアック(RILAC)棟に既設の気体充填型反跳分離装置(GARIS)の末端に,ガスジェット搬送装置を設置し,物理的に前段分離された超重元素を気体または液体クロマトグラフなどの化学分析装置に供給する新しい元素分析システムを開発した.今年度は,^<169>Tm+^<40>Ar反応によって生成するFr同位体を用いて,本システムの性能評価を行った.GARISによる前段分離によって,ガスジェット搬送された生成核は,目的のFr同位体とその娘核種のみであった.ガスジェット搬送効率は,90%を超える世界最高値を達成した.一次ビームがチェンバー内を通過する従来のガスジェット搬送法では,ビーム強度の増大とともに効率が低下する傾向が見られたが,本システムでは測定を行った2pμAまでビーム強度によらず一定であった.ガスジェット搬送時間は,4mの搬送距離で僅か0.4sであった.以上の成果は,生成率が極めて小さくかつ短寿命の超重元素の化学研究に大きなブレイクスルーをもたらすことが期待される:(1)極低バックグラウンド下における超重元素化学実験ならびに放射線測定の実現,(2)ガスジェット搬送効率の高効率化ならびに安定化,(3)多彩な化学実験系の実現.一方,化学実験の対象となる超重元素核種^<265>Sgならびに^<269>Hsの探索を,それぞれ^<232>Th(^<40>Ar,α 3n),^<232>Th(^<40>Ar,3n)反応によって試みた.^<265>Sgについて,ビームエネルギー222.5MeVで上限反応断面積48pbを得た.今後,^<238>U+X反応系も含めて実験を継続していく予定である.
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