Research Abstract |
本年度は,ポリオキソメタレートを構成ブロックとしたイオン性結晶の格子内に,形状が制御されたナノ空間を構築することを目的とした.ナノ空間を有する固体物質の創製は,ナノ空間が表面とは異なる分子収着場を与え,高効率な物質貯蔵・変換プロセスを可能とするという観点から興味深い.しかし,イオン性固体は,イオン結合が等方的に働くために一般に密なパッキングを有し,空隙の構築は困難である.我々は,アニオン性金属酸化物クラスターであるDawson型ポリオキソメタレート[α-P_2W_<18>O_<62>]^<6->及び一部の[WO_6]ユニットを[VO_6]ユニットに交換した置換体(D_<3h>対称)と,マクロカチオン[Cr_3O(OOCH)_6(H_2O)_3]^+(D_<3h>対称)との複合化を行い,ポリオキソメタレートの対称性及び負電荷の違いが,複合体の結晶構造や分子収着特性に与える影響を検討した.その結果,得られた複合体はすべてハニカムパッキングを有し,複合体の構成イオンの対称性(D_<3h>)が結晶構造(hexagonal, P6_3/m)に反映された.複合体のa(b)軸長はほぼ同様であったが,c軸長及び空隙径はポリオキソメタレートの負電荷が大きいほど縮小した.これは構成イオン間のイオン結合が強くなったためと考えられる.複合体の水及びアルコール収着特性を検討した結果,負電荷の小さい複合体ほどより大きなアルコール分子を収着し,分子収着特性の違いは空隙径の違いにより説明できた. イオン性固体は必ずしも単結晶試料としては得られず,粉末試料しか得られないことも多い.一方,粉末X線回折を用いたポリオキソメタレート化合物の構造解析は(リートベルト解析),これらの化合物が重元素(W)と軽元素(C, O)をともに含みかつ結晶格子内の原子数が多いため困難であり,適用例はほとんどない.我々は,粉末のイオン性固体の構造解析に関し,Accerlys社の構造解析用ソフトMaterial Studioを活用し,結晶格子内に構成イオンを予め配置して粉末X線回折の実験値と計算値が最もよく一致するイオン配列をモンテカルロ法により決定した後リートベルト解析を行い,結晶構造を確定している.この手法により,ポリオキソメタレートを含む粉末試料の構造解析が可能となった.(Chem.Mater.2005)
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