Research Abstract |
昨年度は,N, W硫化物ナノクラスターを調製する際にCyDTAなどのキレート剤を用いると, NiとWからなる複合硫化物ナノクラスターが選択的に形成し,軽油中に含まれる難脱硫性化合物である4,6-ジメチルジベンゾチオフェン(4,6-DMDBT)の水素化脱硫(HDS)反応に対して著しく高い活性が得られることを見出した.本年度はこのキレート剤の効果を明らかにするにあたって,まずキレート剤を用いないで調製した硫化物ナノクラスター上での4,6-DMDBTのHDS反応経路を詳細に調べた. まず,反応の全体像を明らかにするため,4,6-DMDBTの転化率を広い範囲で変えて反応を行い,生成物収率と選択性の変化を調べた.その結果,本反応では転化率に依存して生成物が異なり,低転化率域(5〜10%)ではテトラヒドロジメチルジベンゾチオフェン(THDMDBT),ヘキサヒドロジメチルジベンゾチオフェン(HHDNMDBT)とジメチルビフェニル(DMBPh),ジメチルシクロヘキシルベンゼン(DMCHB)が生成したのに対して,転化率が20〜80%の領域ではさらにジメチルビシクロヘキシル(DMBCH)も生成することが明らかとなった.これらのことから,THDMDBT, HHDMDBT, DMBPh, DMCHBはいずれも初期生成物である可能性がある.反応経路についてさらに知見を得るために,数値解析法による検討を行った.得られた結果を既往の研究で提案されている反応経路と比較すると,4,6-DMDBTとHHDMDBTのC-S結合の開裂と芳香環の水素化が同時に起こる経路,および4,6-DMDBTからHHDMDBTが直接生成する経路が新たに見出された.
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