2005 Fiscal Year Annual Research Report
京都の伝統的木造建築に用いられた木材に関する調査研究-材種・用法について
Project/Area Number |
16760515
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Research Institution | Kyoto Institute of Technology |
Principal Investigator |
松田 剛佐 京都工芸繊維大学, 工芸学部, 助手 (20293988)
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Keywords | 丹後型 / 屋敷型住戸 / 城下町 / 商業地域 / 一列型 / 町家 / 災害史 / 白鳥貯木場 |
Research Abstract |
京都の伝統的木造建築における木材の使用状況の実態調査として、京都府与謝郡与謝野町加悦の、伝統的な民家主屋の実測調査・写真撮影を行った。その結果、以下の所見が得られた。加悦の民家主屋は、戦前までの建物がよくのこっていることがまずあげられた。景観上、街道に接道するという敷地条件から、格子窓や、縁先の低い建具が共通して用いられることもあり、連続感があるものである。また、「屋敷型住戸」に代表される大規模な主屋から一列型の小規模なものまで、様々な形式の主屋が混在するのも特徴的である。なかでも四つ間取りの主屋では、「丹後型」の民家形式を基本として、間取りや室内、特に「ダイドコロ」にその構成をのこす。このように、他の間取り型も混在する理由は、16世紀後期以来の安良城城下町としての骨格を引き継ぎつつ、水運と陸路の結節点という物流・交通の結節点として重要であったという変わることのない特質を背景に、18世紀以来隆盛した縮緬業を軸に商業地域として発達したことがまずあげられる。商業地域としての特質が伸展する中で、街道沿いの住居はごく数件を除いて全て何らかの商いを生業とし、一列型の町家を営み、また文化・社会的にも指導層となりうる富豪が現れ、大規模家屋を営んだのであろう。大規模な主屋の住人であった富豪層は、当地域においては文化的にも主導的役割を果たした名望家と呼ぶに相応しい指導者であった。加悦の民家主屋の造作は、彼らの文化的嗜好が反映された、手の込んだ目を引くもので、特に「屋敷型住戸」に顕著にあらわれる。その空間的な特徴は、座敷と座敷庭を取り巻く空間が、美材良材、精巧な細工を用いて、応接や接客のための空間として良く整えられているということである。建築材料については、建物外周や土間部分の礎石は切石で、御影石や花崗岩が使われる。手の込んだものでは、高さ約30cm、幅約12cm、長さ約4mほどもある御影石に、装飾的な面取りを刻んだ地覆石がみられる。土台には栗や檜が用いられる。柱にも栗や檜が用いられる。栗あるいは檜だけを使う主屋や、土間部分に栗、「ザシキ」まわりを檜と、場所によって使い分けるものもある。大黒柱には欅が多く、差鴨居には栗や松が使われる。栗と檜を使い分けた主屋では、それぞれの材種の特徴が考慮され、座敷空間に檜、土間周りに栗が使われる。欅は、木目の美しさから、大黒柱をはじめとした目を引く箇所に使われることの多い材であるが、出入口脇の腰板に欅の一枚板を用いた豪華なものもある。これらの材料の調達先を調査することはできなかったが、檜や栗といった、洛中町家で使われることの多い杉でなく、堅牢で木理の美しい材が主体であることに注目される。周辺の植生にこれらの樹種が多いのかもしれないが、未調査に終わってしまった。上述の調査と平行して、京都の災害史年表の作成を継続している。また、木曽檜の流出先として著名であった、白鳥貯木場の歴代記を入手し、この解読を開始しているところである。 上の成果は、研究発表として、日本民俗建築学会第32回大会で学術講演を行った(2005年5月28日)。
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