Research Abstract |
動物の交尾器の形態は(1)種内ではサイズ等がほぼ一定で安定しているが,(2)種間では他の形質と比べて変異が大きく,速く進化することが示唆されている.しかし,このような進化を可能とする,遺伝的基盤には不明な点が多い.本研究では,雌雄交尾器の遺伝的基盤を量的遺伝学の手法で明らかにし、その結果を組み込んだ交尾器の進化の数理モデルの構築を目指している(小進化過程の研究).また,交尾器の構成要素の数や,その左右性といった基本構造の進化についても,放射線育種学・比較形態学・比較行動学の手法を用いて研究をおこなっている(大進化過程の研究).材料として昆虫類,特に交尾器形態に著しい多様性が観察されるハサミムシ類を選択している.平成17年度は,所属の異動により,小進化研究材料の継続飼育が一部困難となり,大進化過程について重点的に研究を進めた. オオハサミムシは,2本の形態的に相同な挿入器を持つが,その使用パターンには個体群によらず著しい「右利き」の傾向があることがわかった.このような,行動的左右非対称性は,他種では報告がなく,姉妹群における左側の挿入器の退化現象を考える際に興味深い.「利き」の発生過程について記載をおこない,現在,その適応的意義について調査中である. 各種昆虫の交尾器形態の進化を,正しく比較検討するためには,その相同性に関する知見が不可欠である.ガンマ線照射による変異誘発を用いて,ハサミムシ類の交尾器形熊の相同性に関する検討をおこなった.その結果,メスの受精嚢の形態に関して,より派生的な状態(盲管状)から,より祖先的な状態(分岐状・複数個)へと,様々な途中段階を含む「先祖返り」の人為的誘発に成功し,これまで不明であったこの器官の相同性について,新しい知見を得ることができた.また,研究の過程で,幼虫が不明であったハサミムシ類数種について,その形態を明らかにし,簡単な記載をおこなった.
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