Research Abstract |
精巣由来の胎児性癌細胞株はレチノイン酸や熱などの分化誘導処理により,神経,筋,上皮細胞ならびに栄養膜細胞への多分化能を示す.その分化初期において発現が誘導されるMc1-1遺伝子はBcl-2ファミリーに属し,アポトーシスを有意に抑制する.申請者らは,マウス初期胚からヒト胎児期,胎盤形成過程におけるMcl-1遺伝子の発現動態を解析し,発生過程における同遺伝子の重要性を報告した(Sano M, et al., Research Advances in Biological Chemistry, 2004).さらに,胚細胞の腫瘍化とMcl-1遺伝子の関連を解析するために,精巣原発の胚細胞腫瘍における同遺伝子の発現動態を解析した(Sano M, et al, Histopathology, in press).正常成人精巣の生殖細胞ではMcl-1は低発現であったが,セミノーマや胎児性癌,卵黄嚢腫のおいては高発現を認めた.このことから,Mcl-1遺伝子の高発現が胚細胞の腫瘍化に関わった可能性が考えられた.さらに,合胞体性巨細胞(STGC)や絨毛癌といった胎盤方向へ分化した細胞にも強い発現を認め,奇形腫においては上皮や筋,神経,問葉系組織など幅広い発現分布を認めた.その発現パターンは,胎児組織と成人組織における発現分布と類似していた.このことから,胚細胞腫瘍における分化にも同遺伝子の発現が関与している可能性が示唆された.一方,Mcl-1トランスジェニックマウスの解析においては,膵ラ氏島の過形成ならびに腺腫が多発することから,同遺伝子の高発現が膵ラ氏島の発生,あるいは分化・成熟と何らかの関わりをもっている可能性が考えられている.小児のnesidioblastosisでは,インスリンの発現とほとんど一致してMcl-1遺伝子の発現を認めた(Sano M, preparation of manuscript).すなわち,Mcl-1遺伝子の発現はラ氏島β細胞の分化あるいはインスリン産生と密接に関わっている可能性が示唆された.
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