2005 Fiscal Year Annual Research Report
開鼻声と構音障害の消失過程における音響特性の定量的評価
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16791234
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
寺尾 恵美子 新潟大学, 医歯学総合病院, 助手 (40323993)
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Keywords | 舌亜全摘 / 言語障害 / PAP |
Research Abstract |
1.はじめに 舌腫瘍切除術後では言語障害が生じることが多く、切除範囲が広いほど障害の程度はより重篤になる。子音の障害のみならず、母音は子音と結合して用いられるため母音が障害されると会話全体の明瞭度を著しく低下させ、コミユニケーションを困難にする大きな原因となる。今回、舌亜全摘術後に母音・子音に重度の言語障害を呈したが、言語訓練と舌接触補助床(以下PAP)装着によって改善された症例のPAP装着前後の母音の音響変化について報告する。 2.症例 53歳女性。右側舌扁平上皮癌につき、新潟大学医歯学総合病院歯科再建外科にて舌亜全摘術、右側全頸部郭清術ならびに右遊離腹直筋皮弁再建術を施行。舌切除範囲は右側から正中を越え3/4程度であった。舌の可動部位は中舌〜奥舌のみであり。残存する舌尖も縫合によって口腔底に固着しているため、可動範囲は著しく制限されていた。術後21日目に実施した言語評価では母音/i/が/u/に異聴きれ、構音可能な子音は/p,b,m,h/のみであり、会話明瞭度は「5(ほとんど理解できない)」と術前に比し著しい低下が認められた。術後評価の後、言語訓練を開始し、約2か月後には奥舌の可動域拡大と奥舌音の改善が得られたが、舌先の可動域は変化なく、前舌音および母音の改善は言語訓練だけでは困難と判断されたためPAP装着となった。 3.方法 PAP装着時・撤去時の日本語5母音を採取し、KAY製マルチスピーチプログラムを用いて各母音の第1フォルマント(F1)および第2フォルマント(F2)の周波数を求め、KAY社製コンピュータスピーチラボCSL4400に取り込んで分析し、各母音の値をプロットした。 4.結果 母音についてPAP装着時と撤去時を比較してみると.撤去時では狭母音/i,e/の異常が強く、特に/i/ではF2は1657.51Hzと顕著に低下しておりプロット位置は/u/とほぼ重なったが、装着時では1966.81Hzと上昇し、/u/との重なりはみられなくなった。本症例では舌先挙上不足により/i,e/と舌先音が障害されていたため、PAPは舌先部(床の前方部)の盛り上がりを大きくして作成した。これにより口腔内の狭小化が得られたことで否の前方運動が代償され、そのためF2が上昇されたと考える。これは聴覚印象と一致しており、音響分析による母音の規覚的・客観的判定が可能であるといえた。同時に舌先音/t,d,s,ts,dz,∫,t∫,dз/の構音が可能になり、母音・子音双方の改善が得られ、会話明瞭度は「5」から「3」へと上昇した。このように舌切除が広範囲におよび、言語訓練だけでは効果に限界がある症例においては、言語訓練とPAPなどの補綴物の併用が有効であると考えられた。
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