2016 Fiscal Year Annual Research Report
Chiral molecular recognition in amino acid ionic clusters
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16F16035
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
藤井 正明 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 教授 (60181319)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
BOUCHET AUDE 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 外国人特別研究員
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Project Period (FY) |
2016-07-27 – 2018-03-31
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Keywords | 光学異性 / 分子クラスター / 分子認識 / 赤外分光 / プロトン付加体 / イオントラップ / エレクトロスプレー |
Outline of Annual Research Achievements |
特定の分子を認識して結合する分子認識は超分子や生体分子が機能を発揮する上で極めて重要な役割を果たしており、その分子レベルでのメカニズムの理解は化学、生化学、ナノテクノロジーなど広い領域に対する基礎を与える。特に生体分子の場合、右手系と左手系が重ねあわせられない光学異性(キラリティー)は分子認識に強い影響を及ぼしている。このようなキラリティーに由来する分子認識機構を明らかにするため、キラル分子の分子クラスターに対して赤外分光法など分光学的な手段を適用して構造を決定し、分子認識メカニズムを分子論的に解明する。特に本研究ではエレクトロスプレーレーザー赤外分光装置を用いて電荷を帯びたキラル分子クラスターを生成し、その構造を中性状態と比較してキラル分子認識に対する電荷効果および溶媒効果を明らかにする。 受け入れ研究者の研究室で独自に開発したエレクトロスプレー冷却イオントラップレーザー分光装置を用い、プロトン付加したグルタミン酸及びそのダイマーの赤外スペクトルを赤外解離分光法により測定した。この結果、ホモキラルダイマーよりも、ヘテロキラルダイマーの生成効率が高いことを明らかにした。ダイマーの精密構造はMDシミュレーションと量子化学計算により現在解析中である。さらにグルタミン酸受容体の分子認識部位に対応する部分ペプチドを合成して測定の準備を完了した。また、溶媒付着を可能にする前置イオントラップの設計を受け入れ研究者らとともに製作した。これらの結果を9月に招待されている国際学会VOA5(ベルギー)および福岡で開催される"International Symposium, Recent Progress in Molecular Spectroscopy and Dynamics"で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
昨年6月27日に着任して以来、昨年度9ヶ月の間に精力的に研究を推進した。着任後すぐにエレクトロスプレーと極低温冷却イオントラップを装備したレーザー分光装置の使用を開始し、早々にプロトン付加したグルタミン酸とグルタミン酸ダイマーの赤外スペクトルの測定に成功した。この結果をフランス・自由電子赤外レーザーで測定した常温イオンの結果と比較するとともに光学異性体の同種・異種によるダイマーの生成効率をスペクトルから見積もり、異種の組み合わせの方が効率よく生成することから光学異性の効果を明らかにした。この結果は9月に光学異性に関する国際会議の招待講演で発表し、反響を呼んだ。さらにこの結果を英国王立協会のPhys. Chem. Chem. Phys. 誌に投稿し、すでにアクセプトとなっている(DOI:10.1039/C6CP08553A)。 さらにグルタミン酸の神経伝達物質としての機能にも着眼し、グルタミン酸受容体の分子認識部位(ポケット)であるSTKEFを合成し、このペプチド単体の構造とグルタミン酸との錯体形成による構造変化よりグルタミン酸に関する分子認識機構を検討する計画が進んでいる。また、プロトン付加体との比較のため、グルタミン酸ダイマーカチオンの赤外分光を前任地であるベルリン工科大学との国際共同研究として推進し、また、構造変化を制限したアミノインダノン分子でのダイマー形成に対するキラリティーの効果をパリ第11大学・A. Zehnacker教授と打ち合わせ、国際共同研究を進めようとしている。9ヶ月の間の成果としては格段の進展であり、当初想定していなかった国際共同研究2件の推進含めて当初計画以上の進展である。
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Strategy for Future Research Activity |
28年度に合成したグルタミン酸受容体のポケットに対応するペプチドの赤外スペクトルをエレクトロスプレー冷却イオントラップレーザー分光装置による赤外解離分光法で測定する。さらにこのペプチドとグルタミン酸などのクラスターを形成させて赤外スペクトルを測定し、キラルな分子認識機構を分子間構造から考察する。また、中性状態の分光データーがすでに測定されているアミノインダノン分子をエレクトロスプレー冷却イオントラップレーザー分光装置に導入してホモキラル・ヘテロキラルダイマーの赤外解離スペクトルを測定し、キラル分子認識に対するプロトン付加効果明らかにする。以上の分子系に対し、28年度に開発した前置トラップを用いて水分子を付着させて赤外スペクトルを測定し、そのスペクトル変化から水分子の溶媒和構造とキラル分子認識に対する影響を明らかにする。また、量子化学計算を測定したキラルクラスターに対して適用し、測定した赤外スペクトルと理論赤外スペクトルの対応関係から分子構造を決定する。これにより精密に分子認識に対するキラリティーの寄与を明らかにする。中性状態のアミノインダノンダイマーはパリ第11大学A. Zehnacker-Rentien教授が精密な解析を進めており、同教授との国際共同研究を行う計画である。また、プロトン付加体との比較にはグルタミン酸カチオンダイマーに関する研究も重要であるが、これはBouchet特別研究員の前任地であるベルリン工科大・O. Dopfer教授のグループが精力的に進めており、この国際共同研究も進める計画である。これらの結果は2018年2月に行われるGordon Research Conference on Molecular and Ionic Clusters (イタリア)で発表する予定である。
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