2016 Fiscal Year Annual Research Report
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16F16320
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
福嶋 健二 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (60456754)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
PU SHI 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 外国人特別研究員
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Project Period (FY) |
2016-11-07 – 2018-03-31
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Keywords | クォーク・グルーオン・プラズマ / 熱化プロセス / 運動論的アプローチ |
Outline of Annual Research Achievements |
カイラル運動論の応用へと向けた理論整備に関して具体的な成果をあげることができた。相対論的重イオン衝突実験では、熱平衡状態に達したクォーク・グルーオン極限物質が生成された実験的観測データがある一方で、理論的な熱化プロセスはまだほとんど分かっていない。実際、熱化プロセスの完全に量子的な理解は、現代物理学の未解決問題である。古典統計シミュレーションなど様々な理論、数値的な研究があるなかで、最近では運動論を用いたアプローチが盛んに議論されている。運動論は粒子分布密度の小さいところで有効な手法であり、相互作用を摂動計算によって系統的に取り入れられるという利点がある。また、古典統計シミュレーションなどと違って、長時間シミュレーションの後、系が正しく熱化するという点も重要である。というのも、古典統計シミュレーションは半古典近似であるがゆえに量子的な性質が失われており、高エネルギー側の粒子分布関数の漸近的な振る舞いが指数関数的に減衰せず、従って全粒子数や全エネルギーが発散してしまうという深刻な問題をはらんでいる。 本研究では、古典統計シミュレーションで盛んに議論された「乱流」的な振る舞いを、運動論で再検証することが重要であると考た。そこで我々は摂動の主要項だけを取り入れた運動論を用いて、その「固定点」の分類を行った。固定点は熱分布だけでなく乱流的なべき分布も含んでいる。先行研究では、すでにこれらの固定点の存在は知られていたが、固定点から別の固定点へのフローなど、大局的なフローダイヤグラムは全く議論されていなかった。本研究で大局的なフローダイヤグラムが初めて明らかとなり、さらに従来は見落とされていた新しい固定点(スケーリング解)を発見することにも成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定に基いて着実な成果が得られている。研究成果は随時、国際的な学術誌で発表しているほか、国際会議でも口頭発表することにより、成果を広く公表していると同時に、そこで得られるフィードバックを今後の研究計画にも柔軟に取り入れている。
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Strategy for Future Research Activity |
現在は量子異常を取り入れた現象論および基礎研究を並行して進めている。現象論については、カイラル運動論を用いた回転するクォーク物質系の研究を行っている。また、基礎研究については、フェルミオンが有限質量を持つ場合の軸性ワード恒等式の性質について、平衡状態と非平衡状態との本質的な違いについて研究を進めている。どちらも予定通りに進捗しており、近く、論文としてまとめて発表する予定である。
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